第6話 現地人との初遭遇






「お。ちゃんとした道に出たぞ」


 鬱蒼と木々が生い茂る森。時折出くわす魔物の相手を怪物二人に任せながら、ジャッカルの地図アプリ頼みに歩くことしばらく。

 先頭を陣取っていたシンゲンが藪を力任せに切り開き、俺達は轍の跡が残る一本道へと抜けた。


 現代のような舗装こそされていないが、しっかりと地面を踏み固めて作られた街道。

 確かな文明の匂いに、なんか少しホッとした。


「よーし、ひとまず点呼だ。ひぃふぅみぃ……ん? カルメンどこ行った?」

「小さくなって君の後ろに張り付いてる」

「楽でしたぁ」


 ぴょいっとシンゲンの背中から飛び降り、元の八頭身に戻る妖怪ねんどろい……もといカルメン。

 最初は驚いたが、人間なんでも慣れるものだ。或いは思考停止とも言う。


「街道まで来てしまえば、あとは道なりに歩くだけ。日没前には町を拝めるだろう」


 スマホを操作し、こっちだと進行方向を指差し、再び軽快に歩き始めるジャッカル。

 一同、特に何を言うでもなく、その後へ続いた。


 ――あ。ハガネ、髪に葉っぱついてる。


「…………ん」






「わぁ、変な鳥が飛んでますねぇ」

「鳥? 俺様には羽の生えた蛇に見えるぞ」

「ケツァルコアトルか! ファンタジーではメジャーなモンスターだぞ、素晴らしい!」


 森の外周を沿った長閑な風情。

 安全面を考えると当然だが、魔物も街道まではそうそう出てこないらしく、のんびり歩く俺達。


 ……しかし。状況が落ち着いてくると、否が応にも自身の置かれた状況ってものが頭の中で鎌首をもたげ始める。


 異世界。着の身着のまま。原因不明。帰る方法分からず。ピザ屋に聞いとけば良かった。

 どうしよう。明日頃には一人息子が行方不明で両親大騒ぎだよ。

 捜索願とか出されちゃう系かな。手掛かりになるかもみたいな感じで、警察にスマホの検索履歴なんか洗われちゃう系かな。

 考えただけでも死にたくなるんですけど。あんなもん見て分かるのは俺の性癖くらいなのに。


「どうしたキョウ、浮かない顔だな。懸念があるなら聞こうじゃないか」


 スマホ持ったまま異世界まで来たアンタには分からん悩みだよ。






「キョウくん、出身はどこですかぁ?」


 男連中で唯一歳下だからか、カルメンは俺をくん付けで、あとの二人をさん付けで呼ぶ。尚、ハガネはちゃん付け。

 つーかこの人、パーソナルスペースどうなってんだ。身体ぺたぺた触ってくるし、歩きながら話してる今なんて肩と肩が半分くっ付いてるほど近い。

 地元じゃあ、さぞ身近な男どもを勘違いさせただろう。そう考えると、カルメンって名前は案外ハマっているのかも。


 ちなみに俺の出身は神奈川だ。横浜育ちのシティボーイ。特技はサーフィン。波に乗るのも空気を読むのも得意ってワケ。

 分かったら離れてくれ。アンタ、俺より上背があるから並ばれると微妙に凹む。

 お嬢様然とした柔らかな雰囲気とは裏腹な高身長のギャップよ。

 一方で胸は相当に控えめだが。耳触り良くモデル体型と言っておこう。






 歩く。歩く。歩く。

 森での分も足したら、途中の休憩込みで六時間ほど歩いたか。

 陽もかなり傾いてきた。日没まであと半刻ってとこだな。


「予定通り、もうじき着けそうだ」


 流石に疲労の色が乗った声音でジャッカルが告げる。シンゲンはピンピンしてるし、ハガネはポケーッとしてるけども。体力無限かよ。

 カルメン? 二頭身形態でシンゲンの肩に陣取ってるよ。コロボックルか。


「良かったぁ。流石に野宿は抵抗ありますから。ねぇハガネちゃん」

「…………どうでもいい、わ」


 お前そればっかりな。


「しかしよージャッカル。町に着いても、俺様達こっちの通貨なんて持ってないぞ」

「案ずるな。ピザ屋に手持ちを両替して貰ってある、今夜の宿代くらいは事欠かないさ」


 だから、なんで、ピザ屋の配達員が異世界の通貨を持ってんだよ。

 誰か一人くらい疑問を抱いて。あっさり納得しないで。


「とは言え、当座の資金を調達しなければならんことも確かだな。一応考えはあるが、いずれにせよ少し元手が要る」


 腕組みと共に思案顔となるジャッカル。

 そこに合いの手を入れたのは、意外なことにハガネだった。


「…………お金が欲しい、の? なら……どうにかなりそう、よ」


 見ている先の分かりにくい眼差しで、後ろを振り返るハガネ。

 俺達もそれに倣うと――お世辞にもガラが良さそうとは言えない、世紀末みたいな格好で馬に乗って武装した十人ほどのモヒカン集団が、此方に向かって来ていた。





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