第101話 墜ちれども飛燕
「失礼致します」
ギルド門前で屯する俺達の前に現れた、始めにジャッカルが絡んだ受付嬢と同じ制服に身を包む、妙齢の女性。
「当支部の代表が、皆様との会談を是非にと。不都合ありませんようでしたら、どうか一考を」
礼節行き届いた挙動。多分スタッフリーダーか、支部長秘書あたり。
しかも、この謙った対応。やはり傭兵業界とは、力こそパワーらしい。
「いいとも。良きに計らってくれたまえ」
「畏れ入ります」
傲慢ロール続行中なのか、尊大に頷くジャッカル。
対し、滑らかな所作で低頭する案内役の女性。
踵を返した彼女に続く形で、再びナシラ支部の敷居を跨ぐ我々一同。
…………。
――ところでジャッカル。俺に言うことがあるんじゃないのか?
「ん? ふむ、君の筆下ろしについてか? すまんが、もう暫く待って欲しい。オレとカルメンのどちらが相手を務めるか、中々、話が纏まらなくてな」
待って欲しいも何も、今初めて聞いたんですけど。
本人の与り知らぬところで勝手にそういう話を進めるなや。つか徹頭徹尾、余計な世話だ。
まあ、流石に冗談。からかってるだけだと思うが。
……冗談、だよな? その意味ありげな舌舐めずり、やめて欲しい。
「キョウくんは私の方がいいですよね? こういうのは、おねーちゃんの役目です。漫画に書いてありましたぁ」
「否、オレの方が妥当だ。君ほどの美女では
「あー、確かに。ただでさえ男ってのは初めての相手をいつまでも忘れらんねぇ生き物なんだ。俺様も、時々ふと思い出しちまう……うおおお、レイコちゃーんッ!!」
いきなり叫ぶなシンゲン。アンタの大声は頭に響く。
ついでにカルメンの姉弟観は、一般的な見解と致命的に噛み合ってない。そんな非常識を記した有害指定図書、捨ててしまえ。
大体、俺は弟に非ず。そもそも一人っ子だ。家が近所ゆえ、よく遊んでくれた従姉を小学校に上がるまで本当の姉だと思ってたけど。
それも向こうが遠方の高校に進学して以来、疎遠だし。
「…………むにゃ……うるさい、わ」
やっと起きたか寝坊助め。
なんかジャッカルを糾弾する気力もすっかり失せてしまったので、早くナシラ支部代表のところに行こうと皆を促す。案内役さんも心なし困り顔だし。
変に疲れた。さっさと済ませて宿で休みたい。
「それはそうと……キョウくんって強かったんですねぇ」
軽く首を回してたら、少々ばかり意外げにカルメンが零す。
……別に、強くはない。暴力沙汰とか苦手だし、元来臆病な方だし。ステータス表記も全部Dだったし。
けれど。かと言って弱いつもりもない。予てより自己申告済みの筈だ、
暴力が疎ましいからこそ、降りかかる火の粉を払える程度、自衛の手段は修めている次第。
色々あって、ここ半年ほどサボっておりますが。
「アニキ! アニキ、しっかりしてくれ!」
「おい、誰か救護室のヤツ呼んでこい! 意識がねぇ!」
ところで騒がしいな、外。
もしや、さっきのナントカってオッサン関連?
だとしたら、幾らか大袈裟。
「嘘だろ……ランパードさんが、あっさり、のされちまった……」
「あの変な髪色のガキ、一体何しやがったんだ……?」
む。誰だ今のは、失礼な。
のした、なんて人聞き悪い。怪我ひとつさせちゃいませんよ。
ただ――ちょいと顎先にジャブ掠らせて、アタマ揺さぶっただけだ。
ほっといても五分くらいで目を覚ます。十分あれば普通に立って歩ける。
……大丈夫。もう二度と、加減は間違えない。
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