第102話 まず入口
傭兵ギルド各支部の代表は、既に前線を退いた一世代前の上級傭兵が任されることも多いらしい。
蛇の道は蛇と言うべきか。軍のような堅苦しい規律を嫌う血気盛んな武闘派を取り纏めるには、その方が好都合なんだろう。
「ナシラ支部代表、エキットラ・モーデナイだ」
案内役さんに通された先の部屋で俺達を待っていた初老男性。
鋭利な眼光が往年の歴戦ぶりを思わせる、古木のような雰囲気纏う偉丈夫。
「お初に。探索ギルド二等シーカー、ジャッカル・ジャルクジャンヌだ。よしなに頼む」
俺達側の代表って形で、五人横並びから一歩前に踏み出し、朗々と名乗ったジャッカル。
どうやら悪役ロールは飽きたっぽい。いつも通りに戻ってる。
……つか、ジャルクジャンヌて。アンタ、フルだとそんな名前設定だったのかよ。語呂はいいけど、舌もつれそう。
しかも二等シーカー。いつ昇等したのさ、ちょっと前まで三等じゃなかったっけ?
探索ギルドは余程の功績を打ち立てない限り、そうそう等級は上がらないと聞くのに。何やらかし遊ばされたんだ、このハイスペック厨二病。
そんな俺の胸中を余所、エキットラ氏が眉を顰めた。
「ジャルクジャンヌ……? 『竜使い』ジャルクジャンヌか?」
「いや、どちらかと言えば持ちキャラはケンだが」
誰も格ゲーの話はしてねーよ。
「俺様やっぱりザンギだな」
「私、しゅんれーですね」
「…………タキ」
アンタらも乗っかるな。
あとカルメンは名前間違ってるし、ハガネに至っては別のゲームだし。
俺? そも格ゲーは不得手、どう頑張ってもコマンドとかコンボが出せない。
専らレバガチャ派。
「となると、そっちの二人が『赤鬼』と『白鬼』か」
エキットラ氏の視線がハガネとシンゲン、そして二人の首に提がった黒字の
次いで、小さく鼻を鳴らした。
「ノックスの件は俺の耳にも届いてる。カプリコン領でも好き勝手やってた連中だしな。本来なら一足飛びに上級昇格だろうと不思議はなかったヤマだ」
「あーそれな。なんか時期尚早だとか言われたぞ」
シンゲンの呟きに、本部の頭でっかちどもめ、と毒づくエキットラ氏。
叩き上げとキャリア組って、どこの世界でも反りが合わないのね。
「成程。いきなり押しかけて征伐に参加させろなんて生意気な連中が来たと思えば、そういうことか」
「貴殿の語る
ひらひら、とジャッカルが軽く手を振る。
うーむ、このわざとらしい物言い。
「とぼけんなよ。山脈の魔物相手に大立ち回りを演じて、今度こそ上級傭兵を目指そうって魂胆なんだろう?」
「クハハハハッ」
笑うばかりで、否定も肯定もしないジャッカル。
それを是と受け取ったらしいエキットラ氏は、再度鼻を鳴らす。
「フン……向こう見ずなガキどもめ、昔の俺を思い出す。ま、ランパードを叩きのめせる腕前なら、幸運に恵まれた口先だけのハッタリ野郎ってワケでもなさそうだ」
だから、叩きのめしてはいないって。失礼な。
「……で? そんなオレ達に対する、ナシラ征伐隊総責任者様の意向を聞かせ願いたいのだが?」
文机越しに身を乗り出し、どこか挑戦的な眼差しでエキットラ氏を見据え、微笑むジャッカル。
程なく返答代わり、傭兵ギルドの紋章を捺した一枚の書類が差し出され――同時、幾らかの驚きを含んだ声音が響いた。
「お前……女、だったのか?」
「む? おっと、襟のボタンが外れてた」
締まらねぇな。ボタンだけに。
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