第103話 物見遊山
「クハハハハッ! クハハハハハハハハッ!」
一種、前線基地の役割を担うからか、多人数が纏まって移動しやすいよう何本もの大通りを設け、町並みも碁盤の如く整然と区切られたナシラ。
そうした景観の天元、中央広場。何かを運ぶ人々や荷物満載の馬車などが忙しなく行き交う只中、奇怪なポーズを決め、高笑うジャッカル。
「第・一・目・標・達・成・也!」
掲げた手には先程エキットラ氏より頂戴した、征伐隊参加者へと与えられる十字山脈側の防壁通行許可証。
曰く、あれの獲得こそ此度の目的の半分、らしい。
情報だの計画内容だの、往々に小出しなんだよね彼女。後々の楽しみがなくなるとか言って。
「さあ諸君、あとは来るべき決戦当日まで待つばかりだ! 何する? 観光する? おけまるうぇーい!」
唐突なパリピ節。どっから出した、その軽薄なデザインのグラサン。
つか征伐前で町全体がピリピリしてるのに、落ち着いて観光なんぞできるか。
「ちょちょーい、ちゃんキョってばノリ悪いゾ! もっとこう、チキチキいこー!」
ちゃんキョ……ああ、俺のこと。でもチキチキてなんだよ。パリピ語は未履修ゆえ、さっぱり分かんね。
尚、勉強する予定も無い。不毛過ぎるので。
「ハローようつべ! 本日リスナー諸君に贈るコンテンツは『防壁に登ってみた』だぜ! あげぽよあげぽよ、いとエモし!」
ツボにでも入ったのか、緊迫した町の雰囲気に浮きまくりなパリピキャラ続行中のジャッカル。
防壁頂面に敷かれた通路を巡回する兵士さんの視線が痛いので、正直やめて欲しい。
俺以外の三人は誰も気にも留めてないけど。
「ここからだと、まだ山は見えませんねぇ」
植物の育ちにくい土地なのか、延々続く岩ばかりの平地。
そんな殺風景の彼方に待つ山脈を捉えようと、細く目を凝らすカルメン。
ちなみに、俺の目には青く霞みがかった
父方家系の特徴と言うか、生まれつき視力は良いのだ。
すっげ……天を衝かんばかり、とはまさしく斯様なサマを指すんだろう。
アレは確かに、易々と超えられる
――しっかし、こっちもこっちで高くて分厚い壁だこと。
幅十メートル前後、高さ百メートルくらい。長さに至っては五千キロだか、一万キロだか。
しかも、そいつが二枚。かの万里の長城すら裸足で逃げ出す規模と偉容。
なんとはなし、手摺へと寄りかかり、真下を窺う。
うん。もし落ちたら十中八九、打ち所問わず死ぬね。考えただけで背筋寒くなるわ。
「すっごい眺めでしょー!? でもでも、今日はもっと凄いもの見せちゃいまーす! シンちゃん、Let's fly away!」
「よし任せろ! 行くぞ、スーパーヒーロー着地だ!」
躊躇なく飛び降りた馬鹿が約一名。
一部始終を撮り収め、うざったい実況と解説付きで動画サイトにアップしたジャッカルのアカウントは結構な再生回数こそ稼いだものの、落下地点にクレーターができて死ぬほど怒られた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます