第65話 異変
夕暮れ時に店を閉め、家まで帰り、大抵は先に戻ってるダルモンの出迎えを受け、夕食を取る。
あとは風呂に入るなり、気が向いたら二人でトランプかボードゲームでもするなり、寝しなに益体も無い会話を交わすなりして、一日を終える。
これが近頃の流れ。太陽と寝起きを共にするってのは、なんとも健全だ。
栄養バランスが行き届いた食生活と、朝に飲まされる妙ちくりんなフルーツジュースの恩恵か、ここ最近、体調どころか肌の色艶まで良好。
よくよく考えてみたら、異世界人に美味い飯食わせたり広めたり系の漫画やラノベとかは掃いて捨てるほどあるが、その逆パターンって割と珍しいんじゃなかろうか。
まあ、地球で言う近世後期頃に相当する文明レベル。つまり調味料も大抵は揃ってるし。ウスターソースとか、マヨネーズとか、ケチャップとか。オイスターソースみたいなのまであったんだから驚き。そりゃあ食文化も発展してて当然だ。
でも何故かシナモンだけ見付からないんだよな。チュロス食べたさの一心で探してるのに。
ネットスーパーじゃシナモン単体でしか売ってないのだ。料理スキル絶無な俺に揚げ物なんて高等存在、逆立ちしようと作れないっつーの。
……なんか脱線した。閑話休題、路線修正。
兎にも角にも、外的要因となり得る対象が少ない片田舎に於ける一日一日の出来事なんて、半ば版画でも刷ってくみたいなもんだ。
変わり映えナッシング、ほぼ同じことの繰り返し。俺は平気だけど、定期的にスペクタクルを摂取しなければ禁断症状を起こすジャッカルあたりなら、きっと三日で発狂する筈。
にも拘らず、だ。今夜に限り、どういう理屈か二つも異常事態が起きている。
まず、もう夜も遅いってのに、ダルモンが帰ってこない。
今日まで三週間余り、一度たりとも無かったことだ。夜中ふと出て行くにしろ、一旦は戻って来てた。
つっても、此方は大した話じゃない。
普通なら妻の帰りが遅くなると、夫は事件に巻き込まれただの浮気だのと色々心配するもんだけど。俺達の場合は偽装結婚、仮面夫婦だし。誘拐されようが、よその男とよろしくしてようが、どうぞ御自由にって感じ。
元より、俺とダルモンがこの村を訪れた理由は暗殺。状況によっては、帰りが遅くなる日もあるだろう。
以上を踏まえて別段、特筆するに能わず。
では何故そもそも挙げたのかと言うとだ。もうひとつの異常事態、こっちはかなりの大問題であるところのそれと、ダルモンの不在とが、俺にはどう考えても無関係とは思えないんだよね。
…………。
うん。さっきから家のドア、すっげえドンドンされてんの。
もうね、借金取りかってレベルで。
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