第68話 ぷりずん・ぶれいく
曲がりくねった抜け穴を這い出たら、なんか捕まった。
――なにゆえ、よりにもよって出口のとこで囚われのヒロインやってたワケ!? とんだブッキング食らったせいで、このザマよ!
「ツキが無かったな。滅多やたらには起きないぞ、こんな一致」
あらまあ他人事みたいに。腹の立つ。
しかもアレだわ。捕まる時に知った顔を見ちゃって、俺びっくり。
――え? つか、標的って店主のオッサンだったん?
「そうだ。各地の遺跡より旧時代の遺産を盗掘、密売する犯罪組織の売人。奴を殺し、商品の回収を行うのが今回の仕事だ」
なんともはや。あのオッサンてば、そんな物騒な御仁でしたのね。
人は見かけによらないもんだ。先週、客に勘定誤魔化されてたのに。
意外過ぎて抵抗するのも忘れ、あっさり捕まってしまった。
――兎にも角にも、不幸です。キョウくん、きっと今日が天中殺。運勢どん底。
「お前にとっては、そうだろう。だが私にとっては悪くない展開だった。お陰で犯されず済んだからな。一応礼を言っておく、危うく不愉快過ぎて死ぬところだ」
八割方剥かれた、目に毒を通り越して寧ろ心配になる格好から察するに、際どいとこで俺が登場したっぽい。
良かったね。だけど、こっちはちっとも良くないんだよ。
第一、それだって問題の先送りに過ぎない。
オッサン含む標的連中、俺が助けを呼んだかもってんで慌てて外に行ったけど、すぐ援軍なんか来ないと気付いて戻る筈。
そうしたら今度こそ、十八歳未満お断りのオールナイトフェスティバル開催だ。
俺、年齢制限的にアウトだから帰して貰えないもんかね……あ、無理ですか、そうですか。
「チッ……外すのに少し時間が要る。鎖さえ解いてしまえば、あとはどうとでもなるんだが」
どんな命乞いしたら助かるかと思案に耽る傍ら、両手両足の鎖をガチャガチャ鳴らし、舌打ちするダルモン。
全く、こっちは文字通り命運を分ける考え事してんだ。少し静かに……ん? 今なんて?
――もしかして。手足が自由になれば、助かる見込みあんの?
「当然。さっきは想定外の事態に遅れを取ったが、弁えた上でなら、やりようはある」
デジマ。
なんだなんだ。それならそうと早く言ってくれればいいのに。勿体つけちゃって、クイズ番組の司会者かよ。憎いなーもう。
あー良かった。不安がって損した。
深々と安堵の息を吐く。ダルモンに訝しげな目を向けられる。
そんな彼女を他所、俺は思い切り左腕を引っ張り――拘束を抜けた。
「なっ」
痛い。泣きそう。でも平気、男の子だし。
痛すぎ。やっぱ泣く。男の子でも無理。男女平等参画社会。
「お前……今、どうやって……?」
唖然と尋ねてくるダルモン。つっても別段、大層なカラクリじゃない。
昔、左手の骨を纏めて砕いたことがあり、治って以降も手首から先の関節が外れやすくなってるってだけの話。
あんまやりたくないけど。痛いし、気持ち悪いし。
二度三度、拳を握って閉じてと繰り返し、嵌め直す。これがまた痛い。
まあ、あとは簡単。幸いにも俺達の手枷と足枷は、金輪をボルトで固定しただけの、錠前すら使われてない単純極まる構造。
捕縛用とあって流石に頑丈なため、力尽くの破壊はシンゲンやハガネでもなければ不可能と思われるが、片手さえ動かせれば、この通り素手で外せる。
――ほいっと。いっちょ上がり。
幾許かの後、滞りなく解き放たれる俺達。
するとダルモンは、呆れ半分、感心半分の心境が入り混じったような表情で、暴れたせいか血が滲んだ細い手首を舐め上げながら、ぼそりと零した。
「拾いものの割、不気味なほど便利な奴だな……」
不気味とは失敬ですね。ありがとう、くらい素直に言えないのか。言えないんだろうな、へそ曲がりっぽいし。
仕方の無い女め。完全に偶然の産物だけれども、俺ってば恩人よ恩人。場合によっちゃ、一生もののトラウマな性犯罪の魔手から救って差し上げたのよ。お分かり?
…………。
だから今度は、こっちを助けて下さい。どうか頼みます先生。
あ、おてての手当てなら俺が致しますので。お任せあれ。
あと、着替えて。その格好、少年誌に掲載できないレベル。
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