第107話 進軍開始
征伐隊参加者は、防壁六番大門前に十時集合。
ナシラ支部での一件の際、エキットラ氏より受けた通達。
どっかの厨二病は待ちきれないあまり、夜中の二時に俺達を叩き起こしてくれたワケだが。
何考えてんのマジ。
「端数を省けば国軍、傭兵、共に五百ほど。述べ千人少々が此度の総勢となる」
整列する征伐隊の姿をスマホで写真に収めつつ、小気味良く指を鳴らすジャッカル。
……千人か。ノックス盗賊団が最後の襲撃をかけてきた時、確か百人くらいだったから、その約十倍。
予算や準備期間の都合と照らし合わせ、動員可能な大体の上限値らしい。
「事前調査団の報告を盗み聞いたところ、主な討伐対象はゴブリン。勢力圏拡大を図った敵対種に敗れた際、結構な数の生き残りが逃げ延びたとか」
盗み聞き云々は聞かなかったことにするとして、要は残党狩りね。
「うーむ。俺様、例え魔物相手でも敗者に鞭打つのは気乗りせんなぁ……」
「…………雑魚に興味ない……わ」
どうやら食指が動かぬ模様の怪物コンビ。
対しジャッカルは、どこか含みのある顔で高笑った。
「クハハハハッ! 腐るな腐るな、心配無用! そも君達にとって征伐自体、メインディッシュを控えた上での前菜! 単なる
国軍は国軍、傭兵は傭兵で大まかに固まった二色の武装集団。
そんな群体の前に立ち、演説だか訓示だか激励だかを並べる、国軍側の指揮官らしき鎧姿のオッサン。
その横には総責任者たるエキットラ氏の姿も見えた。同じく何か喋ってる。
尤も、最後尾の更に後ろで屯する俺達には内容全然聞こえないけど。講堂とかならまだしも、屋外だもの。
欠伸出そう。どこの世界も偉い奴の話が長いのは同じですか。
「お待たせしやっしたー。ピザのお届けでーす」
「む、来たか」
虚空より現れたカラフルな制服の配達員に、銅貨で支払いを済ませるジャッカル。
自由過ぎだろ。俺も頂くけど。タバスコ取って。
「なんでアイツら飯食ってんだ……てか、何食ってんだ……?」
「馬鹿、目ぇ合わせるな! ランパードさんを半殺しにした例のイカレ共だぞ!」
遠巻きに向けられる視線が些か痛い。
尾鰭の付いた話も出回ってるし。噂とは恐ろしいもんだ。
食べ終え、空箱を片付け始めた頃合。何か、大きなものを動かすような音が響いた。
十字山脈へと続く巨大な門扉。
それを鎖す、鉄骨と見紛う九本の閂が、上から順繰りに一本ずつ取り除かれて行く。
「クハハッ。まあまあの演出だな」
次いで低く鳴り渡る、悲鳴じみた軋み。
全て機械仕掛けなのか、手動による形跡は無い。
程なく――門は開かれた。
「いざ出陣也。軍勢ゆきゆきて幕は上がる」
ジャッカルの独言より一拍。エキットラ氏が陣触れを叫び、轟く咆哮。
土を踏み締める具足、擦れ合う鎧の放つ、どこか喧騒にも似た金属音。
征伐隊の面々は続々と大門を、延いてはその碧落に待つ戦場を目指し、進み始めた。
――じゃ、シンゲンもハガネも気を付けてな。
数日お別れか。少しは静かに過ごせるし、膝も軽くなる。
そんなことを思いつつ、二人へ手を振る俺。
すると。ジャッカルが。
「何を言ってるんだキョウ。君もオレもカルメンも行くんだぞ?」
………………………………。
……………………。
…………。
え、ちょっと。嘘だろオイ。
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