第3話 まずは兎も角
電波が来てる。
そう零したジャッカルの呟きを拾った俺達は再三、顔を見合わせた。
――てことは、つまり?
「異世界じゃないってことですかぁ?」
「つっても仮に地球だったら余計に大問題だろ、あの空。アルマゲドンどころの騒ぎじゃ済まねえぞ、核爆弾積んだロケットどんだけ飛ばせば世界滅亡回避できるんだ」
「…………お腹空いた、わ」
ハガネを除く一同の頭上に浮かぶ疑問符。
更に。
「よく見たらWi-Fiも飛んでる……」
デジマ。どうなってんの異世界。
こんな森の奥までWi-Fiとか、現代日本よりインフラ進んでるんじゃありませんかね。
「しかも……なんだこれは!? 何もしてないのにバッテリー残量が回復してるぞ!」
「ふわぁ、私もそれ欲しいです」
俺も欲しい。ゲームやりたい放題、動画見放題。
「……オレはどうやら、異世界というものを甘く見過ぎていたらしい」
こんなのは流石に予想外だったと、重々しい仕草で項垂れるジャッカル。
でもまあ、スマホが使えるんなら別にいいんじゃない?
ちなみにジャッカル以外、誰もスマホは持ってなかった。
仕事中だったシンゲンはロッカーの中に。カルメンはオペラを観る際、手荷物と合わせて受付の預かり所に。ハガネに至っては通ってる中学が携帯禁止なので、そもそも持ち歩いていないとのこと。
尚、学校サボって自分の部屋で二度寝決め込んでた俺の型落ちスマホは、今もベッド脇に放置されてる筈。
「取り敢えず、どこかに連絡でも入れてみたらどうだ?」
「ふむ、確かに。電波が来ているとは言え、地球と通信ができるかどうかは、まだ分からんからな」
シンゲンの提案に同意したジャッカルが「やはり、まずはあそこか……」とコールを始める。
受話口に耳を当てて待つ彼の面差しには、幾らかの不安の色。
何の前触れもなく離れ離れとなった誰か。両親か友人か、はたまた恋人に想いを馳せているのだろう。
五秒。十秒。十五秒。
やけに長く感じられた時間の末、スピーカー越しに小さく響く人の声。
文明の利器によって見えない糸で繋がった、二つの世界。
そして。
「――もしもし、ピザキャットさんですか? デリバリーお願いしたいんですけど」
電話時特有の半オクターブ上がった声音で、ジャッカルが告げた。
……開幕一番、コードネームなんぞ提案するような男に人並みの感傷を期待した俺が間違っていた。
つか来れるワケないだろ。異世界だぞ。百歩譲っても森の中だぞ。
俺の家ですらエリア外なのに。
「あ、来れますか。良かった」
来れるのかよ。異世界だぞ。百歩譲っても森の中だぞ。
俺の家はエリア外だって断るくせに。
「諸君、何が食べたい。ちょうど電車代を半年分チャージしたばかりだ、なんでも頼んでくれて構わないぞ」
「マジか!? 俺様テリマヨとコーラ! どっちもL!」
「私、マルガリータと紅茶がいいです」
「…………骨無しチキン……バケツサイズ……」
どうやら揃って奢り飯でも手加減しないタイプらしく、口々に注文を出す各者。
特に空腹だったハガネに至っては、こっちまで瞬間移動してきた。
…………。
呆れてものも言えない。どいつもこいつも馬鹿ばっかりだ。
せめて俺だけでも、しっかりしなければ。
「キョウ、君は?」
――クアトロフォルマッジとジンジャーエール。生地はクリスピーで。
「クハハハハッ。好みが合いそうだ」
腹が減ってはなんとやら。
小難しいことは満腹の時に考えよう。
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