第4話 進路決定






 久方振りのピザは美味かった。

 やはり自然の中で取る食事は格別だ。より正確に言うと、自然の中で食べるジャンクフードは最高だ。なんかこう、背徳感が増す。


「ふぅ……さて諸君。腹も落ち着いたことだし、ぼちぼち出発するぞ」


 近くに流れていた沢で手を洗いながら、ジャッカルが促す。

 しかしコイツ、結局家族とかには連絡入れないのな。俺もだけど。

 だって電話番号分かんないし。メモ書きですらスマホ使う一から十まで機械頼みの現代っ子だし。


「出発ぅ? ここに居たって意味ねぇのは分かるがよ、闇雲に歩いても迷うだけだぜ」

「無論、当てはある」


 シンゲンの尤もな意見に対し、不敵な笑みを見せるジャッカル。

 まさかとは思うけど、スマホの地図アプリで最寄りの町を探すとか頭の悪いこと抜かすんじゃないだろうな。


「スマホの地図アプリで最寄りの町を探した」


 過去形。


「五キロほど南下した先に街道が伸びているようだ。さっきのピザ屋も、そう言ってたしな」


 なんでピザ屋の配達員が異世界の地理に詳しいんだよ。

 誰か突っ込め、揃ってスルーすんな。






「ここは浮遊大陸と呼ばれる地の西部。十二の小国家で構成された西方連合に属する二領、ピスケス領とアクエリアス領の境目に位置する森らしいな」


 早足で歩きつつ、スマホから得た情報を要約する形で俺達と共有するジャッカル。

 歩きスマホのくせ、なんでこんな悪路を転びもせず進めるのか。


「ちなみに森の名は『ワクワク森林公園』。さっきのオルトロスを含め、数十種にも及ぶ凶暴な魔物達の群生地だ。当然、立ち入り制限区域に指定されてる。ウィキにそう書いてある」


 俺も調べ物の際は頼ってるけど、いつから異世界の情報まで取り扱うようになったんだろうか。便利過ぎて引くわ。

 あとネーミング。ふざけてんのか、命名者誰だ。


「名前と実態の落差が凄いですねぇ……」

「言ってやるなカルメン。せめて名だけでも親しみやすさを求めたんだとオレは思う。涙ぐましい努力じゃないか」


 どう考えても努力の方向性を間違えてる。

 てか、あんなクリーチャーが他にも団体さんで棲んでるとか恐ろし過ぎ。


 ――俺達、生きてこの森を出られるのか……。


「クハハハハッ! 案ずるなキョウ、心配無用だ! オレ達は異世界転移者だぞ?」


 ――だからなんだってんだ。


「察しの悪いボウヤめ。つまり、この場の全員、何かしらチート能力を与えられてる!」


 超絶他力本願。びっくりするくらい前向きで羨ましい。

 でもチート能力と異世界転移って、必ずしもイコールじゃないと思う。無しのパターンも結構多いだろ。いやまあ、そういうのも大抵なんだかんだ実はチート持ってましたって流れだったりするけどさ。


「現にシンゲンとハガネは正直引くレベルで強かった。ならばオレや君も、例えばこの木くらいワンパンでへし折れるパワーを得ている筈」


 そう言って手近な木を思いっ切り殴りつけたジャッカル。


 直後、拳を痛めたらしい彼は、悶絶しながら蹲った。

 ちなみに、木は全くの無傷である。


 ……なんて声をかけたらいいんだ、この場合。





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