第2話 異世界証明
色々アレだが、ひとまず自己紹介も済んだところで本題へと移る俺達。
即ち『ここは本当に異世界なのか?』という、至極真っ当な疑問。
「何を今更。アレを見ろ」
が。論ずるも馬鹿らしいとばかり、後ろを指すジャッカル。
その先には、いつの間にか森の中で突っ立っていた俺達を早々に襲い、戦闘シーン描写の必要性すら見出せないほど容易くシンゲンとハガネに返り討たれた数頭の獣。
双つ首と蛇の尾を持った、虎に匹敵するだろうサイズの犬……狼? 如何にも凶暴そうな面構え。お手とかやったら腕ごと食われそう。芸を仕込んだりは無理っぽい感じ。
「恐らくオルトロスだな。ギリシャ神話に於いて、かのケルベロスの兄弟とされるバケモノだ」
俺からすると、あんなのを素手でボコった御二方の方が、よっぽどバケモノなんだけど。
しかも筋肉兵器シンゲンは兎も角、この中の誰より小さなハガネが、あの巨体を片手で投げ飛ばした光景は目を疑った。
当の本人お腹でも空いたのか、しょんぼりしてるが。
「斯様な怪物、地球で見たことがあるか? そもそも存在すると思うか?」
――えーっと、ギアナ辺りに?
「あ。居そうですねぇ、確かに」
「……クッ、否定できん! だが! だとしても、あっちはどう説明付ける!?」
伸ばした腕、突き出した指が天高くを示す。
昼間だと言うのに、月よりも大きな星々が、有に百以上は散りばめられた青空を。
「――以上、十七の要素を鑑みるに、ここは地球と全く異なる世界に相違ない! さあ、まだ文句があるなら言ってみろ!」
のべつまくなし。凄まじい勢いで長広舌を振るい、終いには肩で息をしながら、そう締め括ったジャッカル。
もういいよ、分かったよ。ほぼチンプンカンプンだった理論武装とか振り翳さなくても認めるよ、ここ異世界だよ。
何がこうも彼を駆り立てるんだ。カルト宗教に洗脳された狂信者みたいで怖い。
「オレの意見に賛成の者は拍手! はーくしゅ!」
ひとまず逆らわない方が賢明だと見解が一致したため、シンゲンとカルメン共々、三人でぎこちなく拍手する。
満足したのか、ジャッカルは口の端を持ち上げ――次いで、ぷるぷる震え始めた。
「く……クク、クハハハハッ! ああ、夢じゃなかろうか! 指折り数えて待ち侘びた異世界転移、とうとうオレの順番が回ってきたぞ! ビバ、ファンタジーライフ!」
「よっぽど暇な人生送ってたんだなコイツ」
「現実と空想の区別がついてなかったんでしょうかねぇ……」
ひそひそ顔を寄せ合うシンゲンとカルメン。
俺も二人の言い分には概ね同感だが、実際こうやって異世界らしき場所に居る以上、結果論的にはジャッカルの方に先見の明があったことになる。
尚、ハガネは異世界云々の考証には関心が無い様子で、どうでも良さそうに自分が仕留めたオルトロスの亡骸を見下ろしてた。
一瞬、奪った命に対する憐憫の情でも湛えているのかと思ったけれど、的外れも甚だしい。明らかに肉を見る目だ。
でも、それ食うのはやめとくべきだろ。血とか毒々しい紫色だし、腹壊しそう。
「今こそ長年のシミュレーションが実を結ぶ時! 安心しろ諸君、オレが君達を導こう!」
高らかに宣言した後、ジャッカルは異世界来訪記念の写真をネットに上げるべくスマホを取り出す。
「……おっと! そうだ、ここは異世界。スマホなどゴミの役にも立たなかったな、クハハハハハ――は?」
陽気なアメリカ人みたいなノリで額に手を当てて笑うジャッカル。
テンションたけーな、と少し距離を置いていたら、ふと彼の動きが止まった。
眼鏡の奥で丸く見開かれる淡褐色の双眸。
一体どうしたのか。
「……なんか……電波、来てるんだが」
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