賑々しき鍍金細工の楽園探訪
竜胆マサタカ
第1話 エンロール
「ふむ、そうだな。差し当たり、自己紹介でも始めようじゃないか」
自室で惰眠を貪っていたかと思えば、見知らぬ森のド真ん中。
そんな状況に陥り数分。朗々と渡る声で、茶髪の美形が大仰な身振り手振りを添えつつ言った。
古い切り株を囲む、他面子の様子を伺う。
見たところ難色を示す者は居ない。当然か。
何せこの場の五人全員、全くの初対面同士なのだから。
「ではまずオレ――いや待て! どうせならコードネームで名乗り合おう!」
…………。
なんで、そうなるの?
「折角の異世界だ! 心機一転カッコ良く行こうじゃないか! なあ諸君!」
なあ諸君、じゃないよ。頭沸いてんのか。
見ろ、唐突な奇言に皆さん面食らってる。
「成程! 確かにカッコいいのは良いことだ!」
「賛成でぇすっ♪」
「…………好きに……すれば」
気のせいだった。俺の方が少数派らしい。肩身狭い。
仕方ないので賛成に鞍替えする。長い物には巻かれる主義。
さらば本名。
「よし。オレは青龍と名乗ろう。玄武、朱雀、白虎、黄龍、各々好きなものを選んでくれ」
名前は改めるけど、頼むから
いくらなんでも酷すぎる。
「麒麟、鳳凰、霊亀、応龍でもいいぞ!」
選択肢に幅を持たせてやったぞ、みたいな言い方やめて欲しい。
四霊も嫌に決まってんだろ。
「……オレはジャッカル。ジャッカルと呼んでくれ。二十歳だ」
流石に俺以外の面々からも総スカンを食らったため、語感の良さで決めたと思しき第二案を渋々と提示した茶髪の美形、もといジャッカル。
つかマジすか。俺、今後コイツをジャッカルって呼ぶ系ですか。
あらカッコいい、やだ恥ずかしい。あんま呼ばんとこ。呼ばなきゃならない時は小声にしとこ。
「俺様は……そうだな、シンゲンがいい! 山梨出身の二十二歳、よろしく!」
次に名乗りを上げたのは、硬そうな毛質の短い白髪を逆立たせた、厚手のタンクトップが似合うボディビルダー並みに筋肉質な褐色肌の巨漢。
そして良かった、こっちは呼びやすい。脳筋じみた外見の割、常識が備わってる様子で一安心。
出身地的に名前の元ネタだろう武田信玄は、どっちかって言うと知性派な印象だが。
「えーっとぉ。私は、そうですね、カルメンでお願いします。花盛りの十八歳でぇす」
折り返しの三人目。ほわほわした喋り方と、ウェーブがかったプラチナブロンドが特徴的な女性。
すごい美人。見た感じ、北欧系の外人さんっぽい。
まあ、それはさて置き……なにゆえカルメン?
「私、ついさっきまでフランス旅行中で。本場のオペラを鑑賞してたんですねぇ」
たまたま演目がカルメンだったと。
尚更その名前を選ぶ理由が不明。プラスのイメージ全く無いのに。
「劇場が暗くなったら寝ちゃったので、内容は全然知らないんですけどもぉ」
俺も別に詳しくないから独断と偏見で述べさせて頂くなら、男を取っ替え引っ替えした挙句に刺されて死んだ女の話だよ。
でもネガティブ発現して場の空気に水差すのもアレなのでお口チャック。本人楽しそうだし、野暮は御免。
「…………わたし?」
四番手は――なんとも珍しい――鮮やかなブロッサムピンクの髪が膝を越えるほど長い、とても小柄な娘さん。
たぶん俺達の中で最年少。中学生くらいかな、セーラー服着てるし。ぶかぶかだけど。
「…………ん……ハガネ。十四」
赤い瞳が収まった双眸を眠そうに擦った後、彼女は短く告げた。
思った通り最年少。やたらと無骨な名前だが、逆に最近のトレンドなのかも。
いや、流行とか疎いけど。
……で、最後に俺ね。
ぶっちゃけ青龍だの朱雀だのじゃなきゃ、なんでも構わん。ポチでもタマでもいい。
やっぱりポチタマは嫌だ。犬猫だって今時もうちょい高尚な名前を貰ってる。
決めかねて悩んでると、ポケットから落ちる紙切れ一枚。
おみくじだった。近所の神社で引いた、ロクな内容が書かれてないやつ。
考えるのダルいし、これでいっか。
――キョウって呼んでくれ。十六歳だ。
実際は『ヤバ凶』だけど、ちょっぴり見栄を張りたい微妙な年頃。
…………。
改めて考えたら、なんだよヤバ凶って。
そんなおみくじ、聞いたことねーよ。
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