第10話 金貨銀貨銅貨
八時間も待ってられないので、解析が終わるまで外に出て暇を潰すことになった。
――ほぼ徹夜で解析アプリの検証とか。もう執念ってか怨念だな。
果たして何がジャッカルをあそこまで駆り立てるのか。
ひとしきり騒ぎ倒した後、糸が切れた操り人形みたいに倒れた彼の姿を見た時、心底そう思った。
あとアイツ、背丈と比較して体重がかなり軽い。部屋まで運ぶ時、驚いた。
目算で俺より十センチ近く高い筈なのに、どうなってんの。
ま、別にいいんだけど。
何せ残り三人のインパクトは、それどころじゃないから。
――さて、と。ブラつくのはいいが、どうする?
「…………どうでもいい、わ」
ハイ一番困る返し。
つか、なにゆえ俺はハガネと二人で町を歩いてんだ。いつの間にかシンゲンとカルメンがどっか行っちまったせいか。
波長が合うのか仲良いんだよな、アイツら。見た目は完全に美女と野獣だが。
「へい毎度! 焼き鳥十本で二銅貨、ありがとさん!」
朝食が今ひとつ物足りなかったため、市場通りで美味そうな匂いを漂わせてた屋台に立ち寄る。
でかい。焼き鳥ってよりバーベキューだ。これで十本で二銅貨は中々お買い得。
俺一人じゃとても食べ切れないが、元より大半はハガネの分。彼女、小柄な外見と裏腹、目を疑うレベルで大食いなのである。
現に無表情ながらも視線の方は釘付けだし。手ごと噛み付かれる前に渡しておく。
……この世界、と言うか西方連合で使われてる貨幣は、基本的に銅貨と銀貨と金貨の三種類。十二ヶ国が連合を組む際、通貨統合を行ったらしい。
銅貨百枚で銀貨一枚。銀貨百枚で金貨一枚。単位は特に無い。今みたく枚数を、そのまま値段として表す。
ちなみにジャッカル曰く、普通の四人家族が都市部で一年間の生活を送るため必要な額が、平均金貨一枚前後との談。大雑把な感覚で日本円に直すと、だいたい四百万から六百万ってとこか。
つまり銅貨一枚は四百円から六百円になる。物価の違いなど細かい部分を考慮に入れていないため、目安程度だが。
さて。そこら辺を加味した上で現在の俺達の手持ちは、野盗捕縛の報奨金と連中から奪った馬や金品を売っ払った諸々合わせ、八十銀貨ほど。
シンゲンとハガネが均等に分けて構わないと言ってくれたので、一人頭およそ十五銀貨。
宿の代金が風呂付きで一泊十五銅貨だから、切り詰めれば三ヶ月弱は生活できる計算。
でもまあ、人間ただ食って寝るだけで満たされるほど無欲な生き物じゃない。
現に、こうやって市場を覗いてみれば、そこかしこで売られている面白そうな品々。必然、鎌首をもたげる購買意欲。
地球の服は悪目立ちするから、と半ば言い訳めいた免罪符を掲げて装いを新調したり、目に付いた小物をついつい買ってしまったり。着実に出費は嵩んでる。
こんな調子じゃ、三ヶ月どころか一ヶ月で金が尽きるだろう。
少しは節制に努めねば。異世界で路上暮らしなんて御免だ。異世界じゃなくても御免だ。
よし決めた。今日はもう何も買わないぞ。
「…………その果物……十個、ちょうだい」
倹約を誓ったばかりの人間の前で散財は控えて頂きたい。決意が揺らぐ。
て言うか、まだ食うのかよ。胃袋どうなってるの?
そもそもコイツ、下手すりゃ前のセーラー服より目立つ、どこで仕立てて貰ったのかも不明な着物モドキで相当な額を落とした筈なのに、よく金が続くな。
この一週間、ふらっと何度か居なくなることがあったけど、もしや稼ぎに出ていたのか?
考えてみれば、他の面子も特に財布具合を心配する素振りは窺えない。各々、金策の手段を既に見付けているのかも。
今度、聞いてみるか。
……ただ、よしんば俺の想像通りだったとして、アイツらのやり方は参考にならない気もするが。
シンゲンとハガネは当然、ジャッカルとカルメンも普通に頭ひとつふたつ抜けたインチキトンチキコンコンチキなハイスペックだからな。
平均点ってか中央値が高過ぎる。みそっかすは辛い。
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