第77話 side out:喪失したペンタグラム
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これは、いつか、どこかでの出来事。
「今更、どういうことだッ!!」
割れ鐘に似た怒声が、広い部屋の隅々まで響き渡る。
押し潰すような威圧感を伴う眼光。視線を向けられた痩躯の男が、縮こまって平伏した。
「も、申し訳ありません……整備班の者達が揃って隠蔽に動いていたため、発覚が遅れ――」
「言い訳など聞きたくもないわ! 第一、その整備班も貴様の部下だろうが! 手綱すらロクに握れん無能め!」
憤懣の度合いを示さんばかり、自らが座る豪奢な椅子の肘掛けに拳を振り下ろす。
「此度、修復に成功した旧時代の遺産を用いることで異界より捕らえた
当初に受けた報告。
想定よりも振るわぬ成果に些かの落胆を覚えつつ、二十人近い
より高い場所を見つめていた色眼鏡さえ外せば、喜ぶべき十分な収穫だと。
だが。
「実際は
唾を吐き散らし、喉が痛むほど声を張る。
「玄室から消えた
「も、勿論のこと調べ上げて御座います! ですが俄かには信じ難い結果でして、今暫くの精査を……」
「現状のデータで構わん! さっさと申せ!」
怯え、口籠もりながらも、平伏した男は、おずおずと紙束を取り出す。
幾許かの間を重ね、意を決し、読み上げ始めた。
「レベルⅢ『カウントダウン』。レベルⅣ『ウィザード』。同じくレベルⅣ『アイスエイジ』。そして……れ……レベルⅤ……『オーガー』及び『エンドギフト』が……」
「……ば、かな」
告げられた内容は、腑に満ちる怒りさえ吹き飛ぶほどのもの。
茫然と呟き、何度も反芻し、ようやっと理解する。
次いで――先程の比ではない憤怒が、爆ぜた。
「レベルⅣに……レベルⅤ、レベルⅤだと!? 過去数百年を遡ってすら定着の前例が一切皆無の最高位、単体にて国をも堕とす戦略級の
「ひっ……!?」
投げ付けられた杯の砕ける音、飛び散った破片に、小さな悲鳴が混じる。
「加えて、其奴らは
「ひ、平に、平に御容赦を……只今、全力で捜索に当たっております。発見は時間の問題と……」
「悠長を抜かすな! 戦闘に秀でた
今にも手元の剣を抜きかねない、鬼の剣幕。
怒鳴り散らされる男の顔色が、いよいよ蒼白と化す。
「急げ! 猶予の有無など考えるな! 万一にも
這うように、逃げるように、男が退室する。
一転、静まり返ったその部屋で。やがて、獣の如き咆哮が四散した。
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