第128話 剣闘都市ロカロカ
意識外からのロングフック的カルチャーショックを受けてより一夜。
や、いいんだよ別に。嫌いじゃないし、爬虫類。
ただ獣人と呼べるかは悩ましい。どちらかと言えばリザードマン系列だと思う。
騙しやがったなジャッカルめ。
……ともあれ、朝早く宿場町を発った俺達は、予定通り夕方頃、目的地へと辿り着いた。
剣闘と遊興の大都市、ロカロカに。
どうしよう。
来て早々だけど、もう既に、この町を出たい。
「は、離せっ! 離せぇっ!」
往来を劈く悲鳴じみた叫び。
うらぶれた風体の男が、羽交い締めされつつ必死で暴れている。
「たの、頼む、頼むよ! もう少し、もう少しだけ時間をくれ!」
「そいつは無理な相談ナリ」
「借りたもの約束した日に返ス、これ世界のプロミス」
血を吐かんばかりの悲痛な嘆願。
しかし男を取り押さえる二人の
「後生だ! あと一日、あと五ジルバだけ! 今度こそ勝てる! 勝って全額返す!」
「そいつも無理な相談ナリ。その言葉、積もり積もって十ドゥラクマと知レ」
「ボスの伝言。貴様に貸せる金なド、最早びた一ティセンもナッシング」
「嘘じゃねぇ! ようやく読み通りに流れ始めたんだ、ここからなんだよ!」
あゝ無情。いや、当然っちゃ当然か。
詳しい事情は知らねど、聞いてる限り大体見当はつく。
たぶん、俺がボスでも貸さない。
「ふむ……差し詰め、膨れ上がった借金を踏み倒そうと逃げたクチか」
「暗黒面ですねぇ」
野次馬に混ざり、興味深げな視線を送るジャッカルとカルメン。
実のところ気に入った相手以外には割かし薄情だよね、アンタ等。
俺、眼鏡に適って良かったわ。マジで。
「戻るゾ、兄弟」
「応とモ、兄弟」
「ひいぃぃっ!? やめろ、やめろやめろやめろぉっ!」
「不良債権は
「潔く諦めテ、キビキビ返済せヨ。クリーンなボディでシャバに帰ろうゼ」
「嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ! あの地下施設は嫌だあぁぁぁぁっっ!!」
いよいよ男は半狂乱となるが、身長差も体格差も歴然。
むべなるかな、抵抗虚しく捕まった
大の男を、ああも恐慌さす地下施設とは一体。
「おうオッチャン! 串焼き十本くれ!」
せめて意識くらい向けてやれシンゲン。
「…………すやぁ」
寝るなハガネ。
「ロカロカは元々、カジノが有名な町だったんだ」
ふらりと入ったオープンカフェでケーキを頬張り、微笑むジャッカル。
そうした仕草ひとつに至るまで一種の流麗さが窺えるのは、やはり役者ゆえか。
「賭博が盛んなら当然、金貸しも横行する。延いてギャンブルのために借財を作るような輩の末路は、凡そ同じだ」
先刻、連れ去られた男を思い出す。
再び陽の目を拝めるんだろうか、彼。
「そんな崖っぷち連中を集め、見世物に猛獣や穢気不足で弱った低位の魔物などと戦わせたのが剣闘の始まり。今じゃカジノより人気が出て、すっかり剣闘第一の町になっているがな」
若しくは剣闘目当てで訪れた客をカジノに引き込むという、新たな客層の開拓に繋がる流れが生じた、と捉えるべきか。
どちらにせよ、嘗て身内にパチンカスを抱えた親戚が背負った百害を知る身としては、賭け事など論外も論外。
安易な道を選びたい気持ちは汲むが、金が欲しいならバカなことやってねぇで働け。
と。おもむろにジャッカルが席を立った。
「よし! 丁度いい、今からカジノに行くぞ!」
…………。
泥沼に沈んだ愚者の最期を見たばかりにも拘らず、何故斯様な発案が出来るのか。
知力D+──数百万だか数千万に一人の天才様が考えることは、さっぱり分からん。
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