第127話 混種
突然だが、
まあ俺自身、この名すら、ほんの数時間前に聞き知ったばかりだけれど。
彼等彼女等は、地球のサブカルを参照するところの
平均寿命四十歳前後と短命な代わり、運動神経や身体能力に恵まれ、出生から十年足らずで心身の最盛期を迎えるほど成長が早く、以降二十年以上ピークを保ち続けた後、三十代の終わり頃に急激な老化が始まる。
基礎体温の低さから温暖気候を好み、多くが大陸南部で暮らす。極寒の北部では生活不可能。
また、口や声帯の構造自体、南方言語の発音に不向きなため、シメーレタングという独自の言語が存在する。
尤も俺達の場合、言葉は勝手に訳されるが。超便利。
閑話休題。
兎にも角にも、獣人。エルフと魔法とダンジョンに並ぶ、ファンタジーを象徴する四大概念の一柱。
浮遊大陸にはエルフ居ないし、魔法も無いけど。居るのは物騒な魔物、在るのは物騒な異能。
ついでに胡散臭い旧時代とやらが残した、物騒な
……改めて振り返ると、其処彼処に鏤められた異世界コレジャナイ感。全般、物騒過ぎ。どうせなら、もっと夢が欲しい。
そんなワケで小生、獣人という典型的ファンタジックな響きに、一種の期待感みたいなものを抱いてた次第。
分かり易く表現すると――オラ、ワクワクすっぞ!
「ようこソ、客ジン」
国境と剣闘都市の凡そ中間に位置する宿場町。
移動は馬を数倍凌ぐワイバーン、各物資もジャッカルのスマホで取り寄せられる俺達は、別段素通りして構わない補給地。
とは言え、通貨の両替も出来るし、元より大前提が物見遊山の旅道中。ナナナ共和国で最初の町、折角だからと立ち寄ることに。
「何名様ダ」
「五人と一匹様だな。二部屋、一泊で頼む」
たどたどしい片言気味の語調で尋ねてきた、宿主と思しき男――たぶん男――に応対するジャッカル。
一方、その幾らか後ろで遣り取りを眺める俺は、少々複雑な心境、珍妙な気分だった。
――あー。
「ん? お客さん、シメーレタングが話せるのかい? 外国人なのに珍しいね」
「差し当たり十七ヶ国語ほど扱える」
唐突に流暢となる言葉遣い。恐らく西方言語ないし南方言語から切り替えたのだろう。
どうやら俺達の翻訳機能は話しかけた相手にとって最も馴染み深い言語が適応されるらしい。
あとジャッカル、アンタどんだけマルチリンガルだ。
「いや助かるよ。南方言語は喋り辛くて」
だろうね、と胸中でのみ呟く。
基本的な骨格は、一瞥したところ通常の人間と同じ。
しかし上半身裸の筋骨隆々な体躯を覆う分厚い鱗、鋭利な鉤爪が生え揃うゴツゴツした手、極め付けは鰐に似た頭部。
例えるならエジプト神話のセベクなどを想起させる、あまりにも人離れした形態。
こうも口周りの構造が異なれば、さぞ発音し辛かろうさ。
宿に併設された食堂を、それとなく見渡す。
スマートなフォルムの蛇。目玉の大きな蜥蜴。ずんぐりむっくりした甲羅を背負う亀。腰掛ける椅子に同化したカメレオン。
なんと身長三メートル近い、恐竜らしき者まで居た。
観察するうち、性差による容姿の違いが極端だと気付く。
女性は頭部が人型なのだ。鱗も手足の一部と首回りにしか無い。
ただ、縦に裂けた瞳孔や唇の隙間から覗く牙など、細かな部位に特徴が表れている。
そして温暖気候、或いは種族的な価値観ゆえか、男女問わず薄着。やもすれば下着同然の格好。
と言うか。
――
なんだろか。この喜怒哀楽全てに該当しない、ひたすら微妙な気持ち。
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