第70話 窮鼠猫を噛み殺す
「む……!? 貴様ら、何故ここに!!」
音の聞こえた方へ急ぐと、逆方向から駆けてくる、息を切らせたオッサンと鉢合わせた。
その手には、奇妙な金属の塊。
一瞬、目を見張る。
曲部の角度が、やや外側に広がった細長いL字型。
あのシルエット。細かい部分で俺が知るものとの差異こそあれ、間違いない。
拳銃だ。
――さっきの、まさか銃声か……!?
しかも、この世界に於いて現在最も多く普及されてるフリントロック式どころか、地球のオートマチックともリボルバーとも明らかに逸脱した構造の形状。つっても特別、銃火器の類に詳しいワケじゃないんだが。
心なしかジャッカルの持つ笛や、飛空船と似た表面材質。十中八九、旧時代の遺産。
恐らくダルモンの言っていた、オッサンが組織から預かった商品とやらのひとつ。
「見張りの連中は何を……くそっ、役立たずどもめが!」
憤懣やるかたない形相で口角泡飛ばすオッサン。本性表す前と振る舞い違い過ぎて人間不信になりそう。
しかし悪党って輩は、なんでこう決まり切った定型文しか並べないんだろうか。追い詰められると特に。
「お前以外、残らず殺した。仲間も呼んである。大人しく降れば、今なら命だけは助けてやっても構わない」
うっわ。息でもするみたいに嘘を重ねておられますね、ダルモンさん。
残らず殺したってのは兎も角、仲間なんて猫一匹だって呼んでないし、見逃す気も全く無いくせに。
俺知ってんだぞ、服破かれて物凄く不機嫌なの。俺の上着貸したら、ちょっとマシになったが。
…………。
だけどまあ、一種の方便か。
これでオッサンが素直に降参すれば、銃で武装した人間を相手取らず済むんだし。
引鉄に指のかかった銃口向けられるとか、想像するのも嫌だわ。
「代わりに、お前が上から預かった旧時代の遺産を全て渡せ。安いものだろう」
「そ、そんな真似できるか! 今度は組織に殺されるだけだ!」
そもそも今回の依頼主がその組織、とはさっき聞いた。教えないのが、せめてもの優しさか。
教えたところで信じないと思うけれど。
「死んだ、と話を通そう。幸いここから四半日も北に行けば魔物のテリトリーだ。骨も残らず食われたと報告すればいい」
甘言を囁くダルモン。目に見えて揺らぐオッサン。
「決断するなら急げ。仲間を騙すための仕込みを行う時間も要る」
語調を早め、暗に刻限は乏しいとアピール。
オッサンの狼狽え具合が増す。まるで今にも傾きそうな天秤だ。
落ちたな。
「――舐めるなっ! 組織に背を向けるような恥晒し、できるかぁっ!」
落ちてなかった。なんとも赤っ恥。
「愛する妻には先立たれ! 忘れ形見の一人息子も手元を去り! 最早、組織だけが俺の生き甲斐だ! 抜け殻の人生を送るくらいなら、誰だろうと蹴散らしてやる!」
身の上話は本当だったのかよ。泣ける。
などと、同情を抱くのも束の間。
気炎を上げたオッサンは勢いのまま拳銃を振り翳し、叫びながら発砲。
冷静さを欠いた、てんで出鱈目な射線。弾は俺達を逸れ、見当外れの大樹へと着弾。
同時――爆発にも等しい衝撃。
大人三人か四人で手を繋ぎ、ようやく囲めるかどうかの重厚な幹が、紙細工さながら、へし折れて吹き飛んだ。
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