第121話 九死一生






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 ――怪獣大戦争?


 脱兎もかくや、慚愧の森のより逃げ出すこと暫し。

 ジャッカルが笛で呼び戻したピヨ丸に乗り、辛うじて安全と呼べよう距離を得、漸く後方へと意識を向けた俺。


 目の当たりとしたのは、現世の出来事とは思えぬ光景。

 秒毎、地形が塗り替わり、腑を揺らす衝撃波が突き抜ける阿鼻叫喚。


 巨獣は王位たる魔物の中でも随一のフィジカルを有すと聞く。

 早い話、身体能力に限れば世界最強。なるほど納得。


 ――シンゲン、そんなのと張り合ってるし。


 最早サイボーグ通り越して宇宙人、戦闘民族ですわ。

 そのうち満月見て変身とかし始めるんじゃなかろうか。


「後で動画上げとこ」


 以前稼いだ再生回数に味を占めたらしく、いそいそと撮影機材を設置するジャッカル。

 ホント物怖じ絶無。アルマゲドン迎えても平然と笑ってそう。


「圧巻ですねぇ」


 特撮映画なぞ吹けば飛ぶ争乱を、ピヨ丸の鼻先に立ち、デジタル双眼鏡越し眺めるカルメン。

 此方も此方で緊張感ひとつ匂わせていない。恐怖心、品切れなの?


 尚、俺達以外の面子は、ランパード氏のように自力では身動き取れぬ者を除き、挙って遁走。

 当たり前だよね、あんなバケモノ。ここまで離れても全く震えが収まらんし。

 怪我人運ぶの物凄く大変だった。こちとら衛生兵じゃないんだぞ。






「しかし、わざわざ向こうから現れてくれるとは。探す手間が省けた」


 内心ガクブル状態で図体ばかり立派な羽トカゲの陰に隠れてると、テーブルセットを広げ寛ぐジャッカルが、なんとはなし呟いた。

 動悸を紛らわすべく、如何な意図の台詞か尋ねてみれば。


「ん? あぁ、そうか、まだ言っていなかったな。元々シンゲンとハガネには、王位の魔物を相手取って貰う予定だったのさ」


 ――はい?


「そもナシラを訪れたのは二人を特級傭兵まで押し上げるため。特級傭兵とは三大最強種を狩った英傑の称号。その三大最強種は十字山脈でのみ確認されている存在。十字山脈へと入るには防壁を越えねばならん。そして本来、防壁を越えるには七面倒な申請が必要だ」


 けれども折良く征伐、長い認可待ちを丸ごと省ける例外イベントが重なった。

 要は手早く通行証を得るため参加したに過ぎないとの談。

 散々言ってたとは、つまりそういうことらしい。


「引き返すタイミングあたりで隊を抜け出し、ハイキングに向かう手筈だった」


 今なんてほざいたコイツ。


 よ、良かったぁ。フェンリルが出向いてくれてホント助かったぁ。

 危うく地獄巡りツアーさせられるところだ。ありがとう神様仏様お犬様。


 つか、恐ろしいほど乱暴且つ力押し極まる計画だなオイ。シンゲンとハガネが三大最強種を降せる前提の話じゃん。どーすんだよ負けたら。


 ……て言うか……勝敗以前の相手だろ、常識的に考えて。

 視た瞬間、理解した。アレは、俺達人間とは、立ってる階梯も存在する前提も違う生物だ。

 例えるならそう、手足と脳味噌の生えた核兵器。在るだけで破壊を撒き散らす爆弾に、自由な四肢と凶暴な意思が備わった暴力装置。


 いくらシンゲンでも、相手が悪過ぎる。

 現状の戦況は差し当たり互角に見えるけれど、果たして向こうが本気なのかは判断つかないし、サイズ差の分だけ体力もタフネスも彼方有利。長期戦に縺れ込むほど均衡は崩れるだろう。


 しかも、あいつ等、何故か交互に攻撃し合ってやがる。

 ターン制なの? ヤンキーのタイマンなの? せめて元気なうちにマウント取ってダメージ稼げよ。


 等々、声にもならぬ悪態を噛み殺していると。


「あ、あ、あっ。狼さん、倒れましたぁっ」


 ハイヒールで器用に飛び跳ねながら、興奮気味にカルメンが歓声を上げる。

 その言に違わず、遥か遠く、破壊痕夥しい更地の只中にて、力無く横倒しとなったフェンリルの姿。


 次いで。音響攻撃じみた勝鬨が、ビリビリと爆ぜ広がる。


「――うぉぉぉぉおおおおおおおおッッ!! 勝ったぞぉぉぉぉおおおおおおおおッッ!!」


 …………。

 いやいやいやいや。勝つなよ非常識。





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