第20話 経済活動のすゝめ
「諸君! 本日を以て、我々は全員がギルド入りを果たした! この良き日を祝し、乾杯!」
高々と掲げられたジャッカルのグラスに、各々手持ちの飲み物を合わせる。
しかし良き日も何も俺達、二日に一度は乾杯してる気がするんだけど。
「また騒いでるぞ、あのお祭り集団」
「今日も高いボトル入れてやがる……よっぽど景気が良いんだな、羨ましい限りだぜ」
見ろ、外野にお祭り集団言われてる。全く否定できないけど。
あとシンゲン、その酒一本五銀貨もするやつだぞ。ラッパ飲みすんな、もっと味わえ。
「美味い! おかわり!」
すんな。せめてチェイサー挟め。
ジャッカルもそうだが、こんな具合に散財しまくるもんだから、宿での扱いはすっかり御大尽様。
追加注文しようと手を上げるだけで、誰かしら飛んでくる始末。
――なあ。ところでアンタら、金はどうやって都合してんだ?
自分の金銭問題が片付いた気軽さもあり、前々から抱えていた疑問を投げかけてみる。
好景気の秘訣が知れると踏んだのか、周りの客達も聞き耳を立て始めた。
生憎だけど、参考にはならないと思う。
「俺様、ワクワク森林公園で魔物を狩って売ってるぞ」
ほらね。流石シンゲン、予想を全く裏切らない。もろ力技。
「毛皮とか鱗とか色々使えるらしく高値でな。腑分けはカルメンに頼んでる」
「ぶいっ」
なんでも商人ギルドに死体を丸ごと持ち込むと、買い取り価格の四割が解体費で引かれるそうだ。
ぼり過ぎ。でも魔物の血肉は猛毒らしいし、危険を考えると仕方ない部分もあるよね。
「無論しっかり取り分を払ってるぞ。二割だ」
「私は二割でも貰い過ぎだと思いますが……あと、解体の時に出る端材を譲って頂いて小物なんか作ってみたんですけど、これが飛ぶように売れましてぇ」
手製の財布を見せて貰ったら、世辞抜きに一流職人並みの出来栄えだった。縫い目どこだコレ。
そう言えば技力D+だったね。つまりジャッカル曰く数百万人だか数千万人だかに一人しか居ないレベルで器用ってことだよね。そりゃあ有毒生物の解体なんて朝飯前でしょうよ。
「…………わたしは……解体も、自分でやってる、わ」
ハガネ。コイツに至っては技力B++だからな。意外性ゼロ、驚くに値しない。
つかB++ってなんだよ。超人級のBにプラス評価二つって、どんな次元だよ。
「…………狩り……あなたも、やる?」
やらねーよ。死ぬわ。
「クハハハハッ!」
――さ。金の話はこれくらいにして飯食うか。
「待て! ちゃんとオレにも聞け!」
――ヤダよ。アンタのシノギ、ロクでもなさそうだし。
「ロクでもないとは心外な。主にカジノで稼いでるだけだ、必勝法がある」
賭け事はしない主義。年の離れた従兄が筆舌に尽くし難いパチンカスだったから、反面教師にしてんの。
第一ジャッカルの仰る必勝法とやら、どうせ非常識な手管に決まってる。
「なに簡単さ。例えばブラックジャックなら、場に出たカードを全て覚えておけば赤ん坊でも勝てる」
そら見たことか。
最大でトランプ五セットも使うゲームの捨て札を逐一覚えてられる奴なんて、赤ん坊どころかアンタとカルメンくらいだっつーの。
「ちなみにカルメンはルーレットの着地点予想が正確無比でな。配当三十六倍の一点賭けを七回連続で的中させた」
「計算とか得意ですから。出禁になっちゃいましたけどねぇ」
少しは手加減しろ。三十六倍を七回とか、いくら毟り取ったんだ。カジノ潰れちまうわ。
「ハイリスクハイリターンが希望なら、最近オレが凝ってる表面張力ゲームも面白いぞ?」
表面張力……水を満たしたグラスにコイン入れてくやつか。
でもアレ、どっちかって言うと酒場の片隅とかでやる簡単な賭けの類だろ。
そいつがハイリスクハイリターン?
「オレ考案のVIPルーム限定特別ルールでな。
…………。
今なんつった、この厨二病宝塚女。
「クハハハハッ! 投入枚数自由という点がミソでな! ゲーム性や駆け引きの幅、何より真剣味がグンと広がるんだ! ついでに水量を少なめにしてあるから、十枚以上確実に入る! 最後の方は金貨を摘む指が軋むぞぉ?」
当然だね。一回負けたら数千万円単位の金が溶けるからね。なにその脳みそ焦げてる奴しかやらなそうな遊び。
二十歳にもなって厨二病を引きずってる時点で正気じゃないとは思っていたが、ここまでサイコだったなんて。
……嬉々とそのゲームの山場を語るジャッカルを死んだ目で見ながら、俺は誓った。
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