第131話 剣闘士でびゅー






「ああ、そうだキョウ。粉砕爆砕ブレイキング喝采オベイションだがな、それぞれ中指の各鋲を一八〇度ねじると衝撃波のみ発する非殺傷モードになるぞ」


 そう言って俺の両拳に嵌めたグローブをぐりぐりと弄るジャッカル。

 そんな便利機能があるなら、もっと早く言って欲しかった。


「お前なら勝てるぞキョウ! かましていけ!」


 昨日開催された別団体での予選を普通に瞬殺して勝ち上がったシンゲンからの激励。

 その言葉の根拠を教えて頂きたいし、こちとらそもそも試合に出たくないのである。


「すやあ」

「あ、ハガネちゃんはこっちで預かりますねぇ」


 俺の背中で寝こけている、こっちは三日前開催された予選をやっぱり瞬殺で勝ち上がった、と言うか相手を全員殺気で気絶させてたハガネ。

 カルメンが抱っこしようと抱き上げたら、ぐしぐしと瞼を擦りつつ目を覚ました。


「……キョウ……もう、時間……?」


 ──誠に遺憾ながら。


「クハハハハッ! そんなに気負うことはない、君ならやれる!」


 高笑いと共に俺の肩をバシバシ叩く全ての元凶。

 流石に文句のひとつも言ってやろうかと思ったが、ここで強く出られないのが腰巾着の悲しいところ。


 …………。

 まあ、アレだ。この予選はバトルロイヤル形式らしいし、適当に逃げ回って良い感じのタイミングまで攻撃食らったフリして倒れてしまえば大丈夫か。


 そう考えたら少しだけ気分が前向きになって来た。

 よーし、キョウくん頑張って負けてくるぞー。






「がはは、ビビって動けねぇか!」


 ナナナ共和国に属する剣闘八団体で序列八位、つまりドベ位置するらしい『白金林檎はくきんりんご』とかいう団体が、この予選の主催だ。


 舞台は直径五十メートルほどの闘技場。

 俺からすれば十分デカいと思うが、ロカロカに六つ存在する中では一番小規模なのだとか。


 今日は三つの別団体がそれぞれ大会を開いてるとのことで、いかに目玉行事のひとつである八天武闘祭関連の試合とは言え、最弱団体の予選とあって観客の入りは半分程度。

 ただし目立つ席で目立つ連中が騒いでるため、観客席は結構盛り上がってる。尚、勿論ジャッカル達のことである。


 ……現実逃避じみた説明はここまでにしといて、そろそろ現状と向き合おう。


「この大会に貴様みてぇな青ビョータンが出て何しようってんだぁ? 俺ぁそういう世の中ナメてる冷やかしが一番気に食わねぇ! 直々に叩きのめしてやるぜぇっ!」


 身長だけならシンゲンに匹敵する大男が、八十人近く集まった参加者達が合戦場の如く争う中、真っ先に俺を狙ってきたのだ。

 目立たないよう息を潜めてたのに。勘弁願いたい。


「くたばりやがれぁっ!」


 ひいっ。


「へぼあっ!?」


 剣闘士の武器は刃引きされているが、あんな大きな剣で殴られては普通に死ぬに決まってるので、躱しつつアッパーで顎を小突く。

 するとグローブから発された衝撃波が大男を吹っ飛ばし、三回転半の後に壁へと叩き付けた。


「白金林檎二番手の剣闘士と名高いレヤク・ヤラがやられた!?」

「あの小僧相当使ぞ! 囲んで倒せ!」


 なんか今の人、割と手練れだったみたいで、一気に数人からロックオンされた。

 ホントやめて欲しい。一斉に来られたら俺の作戦が成り立たなくなるじゃないか。


「食らえ!」


 ひええ。


「あべし!?」

「このおっ!」


 ちょわ。


「はぶみっ!?」

「貰ったぁ!」


 ぎゃおす。


「かたべらっ!?」

「うおおおっ!」


 カウンターで追っ払う度に次が来てキリが無いんですけど。

 あとこのグローブ相変わらず威力高すぎ。確かに爆発こそ起きてないけど、非殺傷モードの名前が怪しく思える程度には人が吹っ飛んでる。






 のべつ幕なし、参加者達の猛攻を凌ぎ続けること数分。

 気付けば闘技場内に俺以外で立っている者の姿は無く、どうにか無傷でこの急場を切り抜けられた模様。


 いやはや良かった良かった。ジャッカルから無茶振り食らった時はどうなるもんかと。


 …………。

 普通にやり過ぎた。どうすんだよ俺、勢い余って予選突破しちまったよ。

 誰か、この状況からでも入れる保険を教えてくれ。





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賑々しき鍍金細工の楽園探訪 竜胆マサタカ @masataka1201

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