第86話 アリアと精霊

 少しずつ街も近づいてきた。

 しかしその前に気になることがある。


 俺は一度立ち止まって、ティアに質問した。

「ティア、アリア様なんだけど、ミッドナイトを呼び出せるって言ってたが、どういうことだ? 」


 すると、皆も同じように立ち止まり、


「あ、そうそう。 私も気になってました 」


「もちろん俺も気になってたぞ! うんうん! 」


 カイルは目が泳いでるから怪しいが、ミアはもちろん気になる話題のはずだ。


「げっ! 」


 なんだか、ティアは突かれたくないとこを突かれたといった様子だ。


「なんだ? ティア知ってたのか? 」


「春陽、そんな怒った顔しないでよ〜。 ボ、ボクも実のところ知らなかったんだけど……。だけどね? よ〜く考えたらアリアって精霊使いだし〜確かに呼び出せてもおかしくないってゆ〜かぁ。 ……ごめんなさいっ!!! 」


 なんだか俺も険しい顔をしてしまっていたようだ。

 ティアもすごい涙目になりながら謝っているし。


「そんな……ティアちゃん大丈夫ですよ。 アリア様のことです、きっとあえて課題を与えて、ナイトフォールへ行ける器があるか試したかったんですよ 」


 ミアのその推測には一理ある。

 というか俺もミアと同意見だ。


 ただあのアリア様だ、5割は俺たちを試そうとしたのだろうが、もう半分は面白半分かもしれない。

 ……と思ったが、それは言わない方がいいか。


「あぁ、俺もミアと同じ意見だ 」

「俺もだぞ! ミア!! 」


「みんな〜ごめんね〜!! 」


 ティアはものすごく反省しているが、そもそも彼女が反省することは特にないと思う。

 実際、戦力アップにも繋がったわけだし。


 一応?意見がまとまったところで、再び街へ歩き出した。



 ◇



 ようやく街が見えてきた。

 もう目と鼻の先だ。


 にしても暗い。

 辺りは夜だと言うのになんだこの灯りの少なさは。

 かといってあの洞窟のように真っ暗というわけではなく、所々に街灯はあるが少なすぎるだけのことだ。


 あぁ確かうちの近くも夜になるとこれくらい暗かったよなぁ。

 俺の実家近くは田舎だったため、街灯も少なく夜になると真っ暗だったことを思い出した。


「懐かしいなぁ…… 」


「? 春陽さんどうしました? 何が懐かしいんですか? 」


 無意識に声が漏れていたようだ。

 特段日本に帰りたいというわけでもないのだが。


「あ〜いや、故郷を思い出しただけだよ 」


「ふむ、そういえば春陽の故郷の話なんて聞いたこと無かったよな!! 」


「春陽はここシルヴァンディアが故郷じゃないんだよ! 」


 ティアが勝手にネタばらししやがった。

 まぁ特に隠していたわけでもないのだが。


「そうなの!? 」

「そうなのか!? 」


 2人の若干ハモった台詞に対して、

「あぁ、俺は日本っていう異世界からきたんだ 」


「日本? はて聞いたこともないな! どの辺りなのだ? 」

「いや……わからん 」


 カイルの質問に答えられるほど、日本とシルヴァンディアの関係について詳しくない。


「分からんってお前、帰りようがないじゃないか 」


 心配そうな顔で彼は俺の方を見る。

 人のことを本気で心配できる、これが彼の優しさだ。


「まぁ俺の話はいいとして、街の目の前なんだからこの先どうするか考えないと 」


「ん〜春陽の話の続きもしたいが、確かにこれからどうするかが今は大事か…… 」


 ミアもティアもそれについては同意のようだ。

 話を勝手に広げてきたのはティアなんだけどな。


「えっと……提案なんだけどね 」


 ミアが手を挙げた。

 特に挙手制じゃないと話してはいけないルールもないのだけれども。


「ミア、どうした? 」

 一応話しやすいように話を振ってみた。


「まずは分担して情報収集ってのはどうかな? 街の雰囲気と、泊まれる宿、余裕があればシャドウバレーについても聞けたらと 」


 全くその通りすぎる。

 全て大事なことだ。


 言うまでもなく全員賛成の意を示した。


 そのままミアが続き、


「実はいい魔法があるんです 」


 突然の怪しい台詞が、飛んできたがミアは自信ありげな顔で胸を張っている。


 

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