第122話 どっちが本当の……?
ここは……?
俺は今、真っ白な空間にいる。
そこには何もなく、縦や横の奥行きすらも分からないほど。
最早広いのか狭いのかすらも不明だ。
そんな中、1人の女の子が床に蹲っている。
その子は人間の女の子というにはずいぶん身体が小さく、どちらかというと妖精の方が近い。
その根拠となるように、羽なんかも生えている。
俺はその子にゆっくりと近づいて、躊躇なく声をかけた。
「ティア? 」
彼女はゆっくり俺の方を振り向き、涙に濡れたその目で俺の顔を確認した後、いつものように胸の中へ飛びついてきた。
「春陽――っ! 」
「おおっ! いつものティアじゃないか 」
その様子を見て、俺は少し安心した。
現実でジークを殺し、アーカシス様、アリア様を殺すと断言した彼女とここにいる彼女は違うからだ。
そして俺の知ってる彼女はもちろん後者。
「ごめんねっ。 ごめんね――っ! 」
なかなか彼女は泣き止まず、謝罪の言葉を繰り返している。
「ティア? 本当のお前はどっちなんだ? 外のお前は明らかに様子が違うんだけど 」
「……うん、あれはボクじゃない。ボクの中に宿っているおねーちゃんだよ 」
「おねーちゃんってたしか魔力抗争で亡くなったって言ってたよな? 」
「実はおねーちゃん……亡くなる前にボクの体内に魔力を移したんだ。 ボクが春陽の中に入ったみたいにね 」
「なるほどな。 今表に出ているのが、そのおねーちゃんだってことだな。 しかしなんで入れ替わってるんだ? 」
「入れ替わってるというか乗っ取られたって言う方が近いのかな…… 」
「そ、そんなことができるのか!? 」
「姉の魔力量が彼女よりも遥かに上だからでしょうね。おそらく乗っ取られたのはこれが初めてだろうし、そんなことができるのも今回初めて知ったってところかしら 」
この声の主、アリア様は突如この空間に姿を現した。
「え、アリア様!? 」
「……アリア? 」
「ええ、久しぶり! ティア……じゃなくてレイラだったかしら? 」
「アリア、ボクの名前知ってたの? 」
「あなたのお姉さんから以前聞いたことがあってね 」
セレスティアが姉の名前だとすれば、彼女の名前が違うのは当たり前か。
さてどっちの名前で呼べばいいのだろう。
「えっとティア……じゃなくてレイラでいいのか? 」
「ははっ! 春陽、呼び方が違うだけで何緊張してるの〜? 今はいつも通りティアでいいよ! でも……もしおねーちゃんが助かる道があったなら、その時はレイラって呼んで? 」
「うん、分かった。けどさ、ティア……ひとついいか? 」
彼女は俺に耳を傾けて、
「どうしたの? 」
「ティアが俺の中に入って出たように、その……お姉さんもティアの中から出れるんじゃないのか? 」
これは単純な疑問だ。
ティアだって出れた。
アリア様だってこの後同じように出ていくだろう。
ならお姉さんもできるんじゃないのかって。
まぁできないからこうなっているのかもしれないが。
「えっとね……なんて言うんだろう、ねぇアリア! どう説明したらいい? 」
ティアは少し頭を悩ませていたが、すぐにアリア様の元へ向かい、泣きついている。
そういうところを見ると、ティアなんだなって少し安心するな。
アリア様もそう思ったのか少し微笑んだ後に
「……ったくその辺は本当に姉妹ね。 春陽くん、お姉さんは私達とは事情が違う。 彼女の場合は実体を維持できないほどの状態になってやむを得なくそうしたのよ。 だからもし彼女が同じようにしたとしたら、そのままこの世界の魔力とひとつになって消えてしまうわ 」
「なるほど。 ということは今お姉さんがしようとしているのは、神全ての魔力を手に入れて自分の身体を復活させるってこと? 」
「おそらく彼女がそうする理由は、妹を失いたくないからだろうね……。このまま身体を乗っ取ることもできるだろうけど、それをすると妹は消えたも当然だし。 そしてレイラ……あなたは今までずっと心の中の姉に従ってきた、そうでしょ? 」
「うん、そうだよ! おねーちゃんを生き返らせるためだもん! そのするには魔族を倒さなきゃって言うから、ボクはそのために春陽を見つけてここまで来たんだ! 神技の【 記憶操作⠀】だっておねーちゃんの指示通りにした。本当は嫌だったけどおねーちゃんのためならって 」
「そうだったのか…… 」
ティアはいつも明るくてみんなのムードメーカーだった。
神様なのに怯えてばっかりで、本当に大丈夫か?って思ったこともあったけど、どこか守ってあげたくなる……そんな愛嬌が彼女にはあったのだ。
そんな彼女がここまでのことを1人で背負っていたなんて、こんな近くにいて気づけなかった自分が情けない。
そしてティアは続けて、
「神様全員を殺して力を手に入れる、そうおねーちゃんから聞いたのはシャドウバレーに来てからなんだ。 それまで知らずに行動していたし、乗っ取られるなんて今こうなって初めて知って…… 」
「ティアはどうしたいんだ? 」
彼女は大切なお姉さんに騙された、そんな受け取り方もできるはずだ。
傍から見た俺自身そう思うのだから。
だからこそティアがどうしたいか、その気持ちに寄り添ってやりたいと思う。
「ボクは……それでもおねーちゃんを助けたい! 」
「わかった! 三人寄れば文殊の知恵とも言うし、今ここで俺とティア、アリア様でどうすればいいか考えよう! 」
「え、なにそれ? 」
ティアが俺の発言に引っかかる。
まぁ彼女はあまりものを知らない子だから仕方がない。
だがしかしそれに続いて、
「いや、私もよく知らない。 まぁみんなで考えようってことは伝わったわ 」
どうやらこの世界にそんなことわざは無いらしい。
だが内容は伝わったみたいで良かった。
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