第121話 神技【 精神支配⠀】

 (なるほど。 そんなことがあったのね )


 はい、それでアーカシス様がアリア様を呼んだという流れでした。


 (にしてもアーカシス、私に内緒であんな箱に閉じ込めるなんて、後でお仕置してあげなきゃ! )


 お仕置だなんてアリア様が言うとなぜかやらしく聞こえるのは俺だろうか。


 (春陽くん? あなた心の中ではそんなエッチなこと考えていたの? ちょっと引くわ…… )


 あ、そういえば俺の考えていることアリア様に丸見えだったんだ、恥ずかしい……。


 (ふぅ……まぁいいわ、お年頃だろうし。それより春陽くん、私の神技について説明するけどいい? )


 そうだった。

 本来の目的、神技の使い方をアリア様に教えてもらわなければ。

 話が脱線して危うく忘れるところだった。


 (まず私の神技は【 精神支配⠀】。その名の通りよ。対象者の精神に介入することができるの )


 お、なんだかすごい能力っ!

 その力で俺はどうすればいいんでしょう?


 (あら春陽くん、あなたにしては察しが悪いわね。 これでセレスティアの精神世界に入るんじゃない。彼女を説得するなんてあなた以外誰ができるの? )


 なるほど。

 これでアーカシス様が俺に何をさせたかったかようやく理解することができた。


 (それはよかったわ。 ただひとつ注意点があるの )


 注意点?

 それもそうか。

 こんな強そうな力、リスクがない方がおかしい。


 (んーまぁリスクってほどのことじゃないんだけど……精神世界への長居は禁物よ。 自分が何者か分からなくなっちゃうことがあるから )


 なんだそれ……怖すぎるっ!

 できる限り解決に導きたいところだ。


 (やり方は春陽くんの脳にイメージとして流したわ。 よし、行ってらっしゃいっ! ) 


 アリア様に見送りの言葉を頂いた途端、意識が現実へと引き戻される。


「春陽さんっ! 」

「春陽!! 」

「春っち様!!! 」


 すると、俺は立ったまま少し意識を失っていたらしい。

 みんなの呼び声でふと目覚めた。


「おおっ! 春陽くん、戻ってきたみたいだね。 意識を失って1分も経ってないから大丈夫だよ 」


 俺はさっきまでアリア様と神技について話をしていた。

 短い時間と言えど、少なくとも10分程度は会話を続けていたはずだ。

 しかしアーカシス様が言うには、1分も経っていないとのこと。

 一体どういうことだろう。


 (これが精神世界に入った時間感覚よ。 あの時は私の神技で、春陽くんの中に入ったの )


「そうだったのか。 今アリア様に神技の使い方を伝授してもらったところです! 」


「おぉ、さっそくアリアは仕事してくれたみたいだね 」


「はい! でもアーカシス様、アリア様が無断でここへ連れてきたことに対して後でお仕置するって言ってましたよ? 」


「……まぁ覚悟するとしよう 」


 一瞬表情が曇ったが、さすがアーカシス様。

 基本は平常心のようだ。


 (春陽くん、セレスティアは今ホーリーロウのコントロールで手いっぱいみたいだし、今のうちに神技使っちゃう方がいいかもよ? )


 そうですね、分かりました。


「春っち様、帰ってきてくださいね? 」


 突然、ナコから不安そうな声が聞こえてきた。


「ナコ、大丈夫! すぐ戻ってくるよ 」


「お? 春陽。 シャドウバレーでも女性を引っ掛けるとは最早才能だな! ミア、ライバルだぞ! 」


 続いてカイルが俺をいじってくる。

 いや……俺だけじゃない、ミアまでいじられてるし。


「ちょっとカイルくんっ! やめてよ! 」


「本当だぞカイル、帰ってきたら覚えてろよ! 」


 ミアに乗っかって俺も強気に言い放つ。


「ははっ! 悪い悪いっ! 春陽、気をつけてな 」


 カイルはそう言って俺の背中をパンッと叩いてくる。


「春陽さん、待ってますね? 」


 カイルに続いてミアも俺の背中を叩く……いや優しく触れてくる。


 ナコはその流れを見た後に俺のところへ駆け寄ってきて、


「いいなぁ、人って楽しそう。 うん……私、夢の中で自分が人間だった時、楽しかったんだ。 春っち様……早く戻ってきて私を人間に戻してね? 」


 彼女はそう言って手を握ってきた。

 少しミアとカイルからの視線が痛いが……。


「ちゃんと戻ってくるからその時、人間に戻してやる! 」


 そう言って彼女の頭を撫で回した。

 その嬉しそうな表情もまた可愛いな。


 (相変わらずモテモテね。 挨拶が済んだのなら早く行きましょ! )


 ごめんな、遅くなって。


 (いいえ、戦いの最中、何があるか分からないもの。 大切な人との会話は大事だわ )


 ありがとう、行くか。


 俺はアーカシス様が創り出した魔力障壁を抜け、セレスティアの元へ向かった。

 魔力障壁の外はホーリーロウが降り注いでいる。

 もうすでにこの大陸の大半が形すら失うほどに崩れ去ってしまっていた。

 なんて恐ろしい力なんだ。


 それから俺は魔人化により、宙を高速で滑空してなんとかホーリーロウに当たらずセレスティアの元まで近づくことができた。


「春陽、さすがボクが選んだパートナーだよ! ここまで近づいてこれるなんてね 」


 (春陽くん、今よ! )


「あぁ、分かった! 神技【 精神支配⠀】」


「……!? それは確かアリアの神技!? 」


 セレスティアは守りの体勢に入ろうとしたが、これは霊体のようになり彼女の体内へと侵入する。

 物理的には守れまい。


 ということでそのまま彼女の精神へ入ることができたのだった。

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