第61話 スカイタワーの人々
完全の俺の力不足だった。
というかあれに勝てるやついるんだろうか。
いくら大量の魔力を持ってしても届かない領域はあるのだろう、そう感じるほどだった。
「ここで横になってても仕方ない、立つか 」
そう思い、その場から立ち上がったのはゾルガンが姿を消して数十分以上経過してからだ。
……いや、一時間以上経過していたかもしれない。
向かう先は決まっていた。
スカイタワーだ。
目的は2つ。
1つは当初の目的であるノクティス様と会うこと。
2つは避難住民やシリウス達に今回のことを報告することだ。
俺が横になっていた間、町中に『スカイタワーへの避難が完了した』という放送が流れたため、皆そこにいるのだろう。
ゾルガンについてはシリウスやカイル達にだけ話をしよう。
避難住民にそんな強い魔族がいることを話すと、それこそパニックになる可能性もある。
とりあえず街の危険は去ったと見ていいだろう。
横になっている間、少し気持ちの整理もついた。
しかし今日は色んなことが起こりすぎて疲れたな。
ゆっくりだ、ゆっくり自分のペースでスカイタワーへ向かおう。
◇
ようやく着いたな。
タワーの中央付近には大きな時計がついており、時刻15時と指し示している。
もうすぐ夕方か、まさか朝からあんな激闘になるなんて、昨日の自分は思いもしなかっただろう。
タワー1階には高さ3メートル、横幅も5メートル近くあるんじゃないかと思われる巨大な両開き自動ドアがあった。
ドアは透明な仕様のため、中の人がよく見える。
かなりの人で溢れており、自動ドアが人を感知して開いたり閉まったりしている様子だ。
とにかく中に入ってシリウス達を探そう。
「おい、魔族がいたってほんとか? 」
「いつになったら街は安全になるんだ? 」
「早く仕事戻りたいんだけど〜」
中は人でごった返している上に不安な様子を言葉に発している人がたくさんいるようだ。
そこで事を大きくしないよう騎士団の人達が説明をしたり宥めたりとしている。
『み、みなさんもうしばらくここでお待ちください! 』
可愛らしい女性の声がスピーカーを通して聞こえてくる。
この世界にスピーカーなんてものあったのか。
あ、聞いたことある声だと思ったらミアだ。
彼女は1階の中心にいた。
そしてパニックになり得る人に対して声をかけ、そうならないように宥めている。
やはりミア、出来る子だ。
「ミア! 」
彼女に聞こえるよう大きな声で名を呼んだ。
すると、ミアは声で誰か分かったようですぐに目が合い、
『春陽さん! 』
大きな声をマイクを通したため、キーンという金属音と俺の名前がミアの声に乗せて聞こえてきた。
お、おう、耳がキーンってなる……。
あんな大きい声出るんだな。
『あ、ごめんなさい…… 』
声の大きさを小さく調整し、彼女らしく、皆に謝罪の言葉を述べている。
そしてマイクを置いてから俺の元へ駆け寄ってきた。
「春陽さん、無事でよかった。 あの魔族は……? 」
「ああ、倒したよ。 もう街は大丈夫だと思う 」
今は周りに人が多い。
エレナのことは後で伝えよう。
「ほんとですか!? 春陽さん……こっち来てください 」
彼女に身を委ね、連れられたのは部屋の中心、先程までミアが話していた場所だ。
俺にここでどうしろと?
彼女は俺の手を掴み、上に手を挙げてきた。
『皆さん、もう街に魔族がいません! 私の自慢の友達、春陽さんが倒してくれたんです 』
うおおおおおおお───
スカイタワー全体に聞こえたのではないかと思うほどの大声が1階に響き渡った。
「ならもう出てもいいのか? 」
ミアは少し悩んで俺に耳打ちで、
「もう大丈夫ですかね? 」
そう言ってきたので、同じく耳打ちで
「ああ、少なくとも人が突然大暴れするということはなくなったはず」
そう返した。
ミアは安心したような表情で、
『はい、皆さん街へ戻って大丈夫です 』
「にーちゃんありがとうな! 」
「街の英雄だ、ありがとう! 」
大急ぎで自動ドアをくぐり、帰っていった人、ゆっくりと戻ろうとしている人、感謝を俺に伝えてから帰る人など様々な住民がいた。
感謝は嬉しいが、俺の前で手を合わせ、お辞儀をするような人だっていた。
俺は神様じゃないんだが。
◇
ようやく1階の全員が帰ったようだ。
1階に残るは、俺、ミア、騎士団員5名ほど。
「さすが、春陽さんですねっ! 」
そうミアは満面の笑みを浮かべている。
そんな彼女にエレナのことを言うのは非常に苦しいが、このまま黙っているわけにはいかない。
「ミア 」
「どうしました? 」
「エレナが拐われた 」
「……え!? 」
ミアには事の顛末を全て話した。
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