第60話 圧倒的な力
戦いが終わった。
実のところ10分ほどだったと思うが、永遠と感じてしまうほどに体感時間は長かった。
息をすることを忘れてしまうほど、張り詰めた戦いを繰り広げていたからだ。
「主様……エレナ、仇討ったよ 」
エレナはいつの間にか俺のそばにいた。
彼女は戦いながら回復していたようだから身体は綺麗だが、何度も斬りつけられたため、服はボロボロだ。
傷は癒えているが、体力がなくなったようで身体もふらふらしている。
そんな彼女の姿を見ると、仇を討てた気持ちに共感するのか、頑張った彼女を見て感動したのか、彼女の無事に安心したのか分からないが……いや全部か、俺はなんだか涙が出そうになった。
そんな俺の姿を見てエレナは、
「主様、どうしたの……?」
心配そうな顔でそう言うので、
「いや、エレナが無事でよかったなって 」
俺が思った1番無難な理由を答えた。
「えへへー、主様ありがと……お、おっとっと 」
彼女は少しバランスを崩し転けそうになったが、間一髪支えることができた。
「……!? お、おい大丈夫か? 」
「ごめんね、主様 」
そう言って彼女は再び自分の足で踏ん張り直した。
「リシアン……やられたか 」
……!?
俺とエレナの約5メートルほど先にそいつはいた。
重厚な鎧を胴体に身につけ、黒いローブとマントを羽織っている。
そして身長2mあるだろう巨体に大人びた顔立ち。
40代くらいの見た目をしている。
この魔力は魔族の他ならないものだ。
一体この街に何体魔族がいるんだよ。
しかしこいつ、全く気配がなかった。
「……誰だ? 」
ようやく声を出せたが、魔族を目の前にしてこれほど足がすくみ、冷や汗をかき、身体が震え上がる。
そんな感覚初めてだった。
あ、目の前のこいつにはどうしたって勝てない、本能も取り込んだ魔力もそう俺に情報を与えてくる。
エレナは全身を強ばらせ、金縛りにあったかのように動けないでいるようだ。
「ダークオーダー第二席『ゾルガン・シャドウハート』」
こっちは声を出すのが精一杯な中、ゾルガンとやらは機械のように淡々と名を告げてきた。
第二席ということは組織内の序列2位ってことか。
俺がこの世界の魔力を全て使えるとしても勝てる気がしないってことは、あいつの体内にはそれ以上の魔力が秘められているということになる。
「第八席が空いた。 そいつで埋める 」
ゾルガンが指差した先には、
「……エレナ? 」
「お前を連れていく 」
「……や……だ。 行き……たくない 」
あいつは何故だかエレナを連れていこうとしている。
俺が止めなきゃならない……のは分かってる。
そして振り絞った声で、
「やめろっ! 」
「お前に用はない。 退け 」
ゾルガンは右を指差した。
「え、なんだ? 」
……!?
やつが指差した方へ俺は吹き飛んだ。
どう抵抗しても、その力には逆らえず、無防備に飛ばされるしかなかった。
これ数十メートルは飛んだんじゃないか?
マズイ! エレナが拐われる!
「エレナに触るなっ! 」
俺が叫ぶと、ゾルガンはこちらを向き、
「まだ動けるのか 」
そう言って俺に手をかざしてきた。
「次は何を……!? 」
身体が全く動かない。
見えない何かに縛られているような、そんな感覚だ。
何も詠唱せずこんな力を……。
これが第二席。
「……やめて……やめて……やめて、離して! 主様……助けて 」
ゾルガンはエレナの首を掴み、身動きできないようにしている。
「お前、人間にしてはまぁまぁだな 」
そう吐き捨てゾルガンは闇の魔力であろうエネルギーを身体中に纏い、姿を消した。
「エレナァァァァァァァッ! 」
謎のバインドが解けた後、そう叫ぶことしかできなかった。
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