第87話 この街のギルドは…


 やはり街に入ってからも街灯は少なく、不気味だ。

 さらには、その住人らしき人達もなぜか黒ベースの衣類を着ており、それがより暗さを引き立たせている。

 中にはフードを被っている人もいるがなぜだ?

 顔が見られてはいけない理由でもあるのだろうか。


『ねぇねぇ、どこに向かうの? ねぇってば! 』

「春陽、早くその球体静かにさせてよ! さっきからうるさいんだけど! 」


 俺からしたら2人ともうるさい。

 ちなみにその球体とは、以前アークスカイで購入した『クリスタルボール』のことだ。


 じゃあなぜ急に話し始めたか?


 それはミアの魔法によるものだ。

 たしかに彼女は「いい魔法があるんです」と言っていた。

 そしてその通りだとは思うのだが、まさかこんなにお喋りさんだったとは……。


 通信連絡用小型妖精、通称『ピクシー』


 これがこの話す球体の正体なのだ。


 どうやらこの妖精そのものは霊体であり、呼び出すだけでは機能しないらしい。

 つまり何か物体に宿り、それを通信媒体へと変化させるようだ。


 そこで目に付いたのが、このクリスタルボール。

 大きさもそこそこで持ちやすく、みんな共通で持っているから丁度いいねと話がまとまった。


『主人とカイル氏はこの街のこと、宿について、あなたはシャドウバレーについて、分担して聞き込みするんでしょ? それなら早くどこかお店に入ったほうがいいよ!! 』


「ま、まぁそうだな 」


「えっ! 春陽、球体の言うこと聞くの!? ボクやだよぉ 」


「仕方ないだろ。 実際正しいこと言ってんだし 」


 そう、少し口うるさい球体だが、基本的にマトモなことを言っているのだ。

 このピクシーと話し始めて30分程度経つが、いつも正しいし、もう全て従ってみようかなとも思い始めてきた。


「えっと、それじゃあここに入るか? 」


 ちょうど目の前に『冒険者ギルド』という看板が建物の頭付近に大きく横文字で設置されている。


「え〜なんかボロいけど大丈夫? 」


『あなた神様でしょ? そんなこと言うもんじゃないよ? 』


「え、本当なんなのこの球体…… 」


『それと球体じゃなくてピクシーだし。 そろそろ覚えてね 』


「ムキィィィッ!! 春陽! もう行こっ!! 」


「え、あぁ…… 」


 神様が妖精に論破されてる。

 このピクシーの言葉、正論すぎて言い返せないんだよなぁ。


 ティアはちっちゃいし、ピクシーは球体のため、結局俺がドアを開けることになる。


 ガラガラッ――


「マスター!!! 酒持ってってくれ――!! 」

「こっちの席にも頼むっ!!!! 」


「はいはい〜! 飲みすぎて暴れるんじゃねーぞ! 」


 外観も大きかったし、中も広いだろうなぁと思っていたが、かなり広い。

 入って左半分はテーブル席がいくつもあり、それぞれお酒や食事が提供されている。

 まるで居酒屋の光景だな。


 もう半分は当たり前だが、『ギルド』って感じだ。


 すると、ティアが耳打ちしてきた。

「ねぇちょっと春陽……。 怖い人ばっかり。 ここ出ようよ 」


 周りに聞かれたくないようだしと俺も耳打ちで、

「いやいや、見た目だけじゃなんとも言えないだろ。 いい人だってきっといるよ 」


『いやいや、君たちここへ何しに来たの? シャドウバレーのこと聞きに来たんでしょ? 』


 そのピクシーの声にギルド内の人々は一斉にこちらへ目を向けた。

 そりゃそうだ、こんなに騒がしかった場の音量をはるかに凌ぐ大きな声だった。


「おい、兄ちゃん。 見たことねぇが、よそ者か? 」


 ここにいる全員チンピラのような顔をしているが、一際目立った風貌の男が声をかけてきた。

 これだけ顔に傷跡があるのはこの人くらいだろう。


「はい、今日ここに着きました 」


「じゃあさっきの言葉が厳禁なのも知らねーよな? 」


 なんだ、さっきの言葉って。

 まぁおそらく思いつくのはひとつしかないが。


『それはシャドウバレーのことだね!きっと! 』


「ちょっと球体――! 厳禁なんだってば――! 」


「はぁ……。 兄ちゃん、一度は俺だって許そうとしたんだぜ? わりぃが二度は許せねぇよな、お前ら! 」


 ガタッ――


 この男がそう叫んだ瞬間、座って酒を飲んでたやつ、掲示板でクエストを探していたやつ、仲間と会話していたやつが全員近づいてきた。


 お前らってこんなにいるの……。

 

 


 


 

 

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