第100話 VSゾルガン①

 ゾルガンが目の前にいる。

 彼を見ると思い出すな。

 空中都市での出来事を。


 あの時、やつを見ると恐怖を感じていた。

 もちろん共にいるゼフィールも今、怯えている。

 彼は必死に平然を装うとしているが、足もガクガクだし全く隠せていない。


 あの時は恐怖で身体が動かなかったが、今俺の身体はいつも通りのコンディションだ。

 仮説としてノクティス様の力を引き継いだことによる影響もしくは、そもそも2回目のため耐性ができた、そんなところか?


「お前、俺が怖くないのか? 」


 ゾルガンはそれこそ無表情ではあるが、言い方から少し驚いていることが伝わってくる。


「あぁ、どうやらそうみたいだ 」


「そうか。 お前が以前感じた恐怖、それは俺の体質みたいなものだ。 俺を見たモノ全てが恐れをなす。 そんな呪いだ。 ただ、対象外もいる 」


 そこで彼は言葉を止めた。


「対象外って? 」


 今は本当に恐怖心を感じないため、彼になんでも聞けそうな気がする。


「……神だ。 つまりお前は神ノクティスの力を引き継いだということだな? 」


 そうか、あの時本来は魔族神マルコスへと引き継がれる予定だったのだ。

 だが、そうなっていない。

 つまり他に引き継いだヤツがいるって考えるのは自然なことか。

 どう答えるのが正解だろう……。


「そういうことになるな 」


 仕方ない。

 まぁ隠し通せるわけもないだろうし。

 というわけで嘘はつかず正直に答えた。


「わかった。 最優先事項変更。 人間、お前から殺すことにする。 その後でゼフィール、次にセレスティアの順だ 」


「ええっ! ボ、ボク!? 」


 そりゃ神様だしな。

 それにセレスティアだって対象外のはずだけど、ガクガク震えている。

 いや、これ単純にビビっているだけか。


 ゾルガンは人差し指を立てて、クイッと自身に向けた。


「うおっ! 」


 俺自身がゾルガンに引き寄せられる。

 あれはたしか空中都市でもやられた。

 何が起こったか分からなかったが、あの時もあいつが向けた指の方向へ身体が飛ばされたのだ。

 しかも宙に浮いているため、全く身動きが取れない。


 ゾルガンがもう目前に迫り、もうぶつかるっ!と思ったところで地に叩きつけられた。

  

 「ぐあっ! 」


 うつ伏せたままではマズイと思い、仰向けになるとちょうどやつの拳が振り下ろされてきた。


 ドンッ――


 間一髪避けることができた。


 きっと初めに叩きつけられたときもあの拳にやられたのだろう。 


 それからまた数発の拳が振り下ろされるも、なんとか転がりながら避け続ける。


 そしてこの大連撃がふと一瞬だけ止まった。

 俺はそのタイミングで立ち上がり、再び距離をとる。


「悪い、助けるのが遅くなった 」


 後ろからそう聞こえてきた。

 この声、ゼフィールだ。

 何かしてくれたのだろう。


「今のゼフィールか、ありがとう! 何をしたんだ? 」


「時間魔法で、 一瞬だけゾルガンの動きを止めた。 やつは強すぎる! せいぜい止めることができて、1秒程度だが 」


「いや、それでもすごい! 助かったよ 」


 実際そのおかげでゾルガンの猛攻から抜け出すことができた。


「春陽、悪いが俺が戦闘に交じると足でまといになる。 だからこの時間魔法で援護させてくれないか? 」


「もちろん! 頼んだよ! 」


 まずはあの引力っぽい技を攻略しなければいけないが、1秒も止められるならば回避できるかもしれない。


 再びゾルガンは人差し指をクイッと自身に向ける。

 それに対して俺は無属性エーテルバフを纏い、溢れるエネルギーによる空中旋回をして避ける姿勢を見せた。

 そして今回は引き寄せられることもない俺の姿を見て、さすがのゾルガンも目を見開いている。


「……なぜだ? 」


 ただ避けるだけではきっと引き寄せられていた。

 だがゾルガンは今ゼフィールの時間魔法によって時折時間を止められる。

 それに加え、俺はやつの動体視力を鈍らせた。

 さすがダークオーダー第二席、神技でも時間魔法同様にほんの1秒遅らせるのが限界だったが。


 つまり時間魔法と合わせて2秒のズレが生じる。


「それを教えちゃ攻略されちゃうだろ 」


「……そうか。 まぁいい 」


 やつがこのズレに慣れるまでが俺たちの勝機。

 一気に攻めてやる!

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