第78話 不安

 闇の精霊の話をした後、もう夜も遅かったため、豪邸の一室で寝ることにした。

 さすが広いだけあって1人一室宛てがわれたよ。

 きっと明日は疲れるだろうし、早く寝よう。



 ◇



 そして次の日。


 昨日食事をしたリビングに向かうと、

「よく眠れたかい? 」

 昨日あんなに騒いでたのが嘘かのように清楚な顔をして、アリア様は出迎えてくれた。

 常にこうしていれば美人なのにもったいない。


「はい、ゆっくり寝れました。 そういえばミアは? 」


 カイルとティアは朝食を貪っている。

 ミアの姿が見えないが、まだ寝ているのかな。


 ニヤリと笑っているアリア様が、

「ああ、彼女なら今修行中じゃないかな 」


 なるほど、早速か。

 しかし闇の精霊を呼び出すには修行が必要なのだろうか。


「気になるなら庭に行っておいでよ。 君たちがくぐった門扉の先に庭があったでしょ? ミアちゃんはそこにいるよ 」


 気にならないといえば嘘になるし、ちょっとだけ様子を見に行くか。

 修行の邪魔にならない程度で。


 そう思い、俺は庭に向かった。

 ってこれ本当に家の庭なんだろうか。

 どこぞやの市で運営しているフラワーパークなのかと思ってしまう。


 こりゃ広すぎて見つかるんだろうか、と思っていたが、意外とすぐに見つかった。


「ミア、休憩中か? そんないいベンチに座っちゃって 」

 彼女は新品と思えるほど光沢がかったベンチに腰をかけている。


「あぁ、春陽さん……おはようございます 」


 いつもより少し……いやめっちゃ落ち込んでいるな。

 修行が上手くいかないのだろうか。


「大丈夫か? 」

「はい……でももしかすると上手くいかないかもしれません…… 」

「どうしてそう思うんだ? 」

「絶対的に魔力量が足らないみたいで…… 。 どうしたらいいのかアリア様に聞きに行こうかと  」

「なるほど、そういうことか 」


 俺はこの世界の魔力とやらにそこまで詳しくない。

 それこそ魔力器官に宿せる魔力量を増やせるかどうかなんてもってのほかだ。

 何か力になってやりたいが……。

 とりあえず行き詰まっているなら一度気分転換も必要だろう。


「ミア、一旦部屋に戻って休むか? 」

 彼女は少し考えた後、「そうですね、このままじゃ修行も進まないし 」


 それから2人で皆がいるリビングへ戻った。

 すると戻ったリビングから、

「ちょっとアリア!! 今闇の精霊って言った!? 」

「えぇ、あのミアちゃんって子、精霊魔法の使い手みたいだし 」


 ティアはものすごい真っ赤な顔をして怒声を発している中、アリアはテーブルに座り、ティータイムを嗜んでいた。

 それを目の当たりにしているカイルはオロオロとしており、この空間にいる3人、見事に感情が別々という奇妙な空間が完成している。


「ティア、何怒ってるんだ? 」

「このバカ神が君たちと闇の精霊を戦わせようとしてるからさ!! 」

「でもそうしないとナイトフォールに行けないらしいぞ? 」

「そうそう、春陽くんのいうとおり、闇の精霊に連れて行ってもらわないといけないの。 さぁバカ神はどっちだろうね 」


 アリアはティアに笑みを向けながらそう言った。

 その笑顔からは明確な感情が伝わってくる、あれは人をバカにしている時の笑みだ。


「ムキィィッ!! って怒っても仕方ないか……。きっと闇の精霊は春陽がいたら心配ないだろうし 」


 バカにされつつもティアは平常心を取り戻したみたいだ。

 にしても俺頼りか……。

 まぁ善処するけども。


「え? 春陽くんは戦わないよ? 」


 あれ、どうもアリア様の中で俺は頭数に入っていないらしい。

 なんでダメなのか、もしかすると彼女なりの考えがある?


 と、俺が質問する前に言葉を発したのはミアだった。

「ア、アリア様……春陽さんはダメってどういうことですか? 」

 そりゃ戦える頭数が減るのは不安だろう。


「そりゃミアちゃんは精霊使いでしょ? 春陽くんが倒しても意味がないからね 」

「そうですよね。 私が使役しないと意味ないですもんね。

「分かってくれたならよかった。 で、いつ呼び出す? 」

「アリア様、一つ問題がありまして、私の魔力量ではどうも闇の精霊を呼び出すことが難しそうで…… 」


 するとアリア様は天井を、難しい顔で見つめ始めた。

 初めは何か天井にいるのかと思ったが、どうも彼女は思考中のようだ。

 そして再び正面を向く頃にはいつもの笑顔に戻り、


「春陽くん……君、ノクティスの神技使えるんだってね 」

「あ、はい。 それが何か? 」

「それ使ったら何とかなるかもよ? 」


 何とかなる?

 一体どう使うんだろうか。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る