第83話 豪邸での出来事

 あれからさらに3日経った。

 アリア様が決めた出発の日だ。


「結局俺の力、試せなかったではないかぁぁ! 」


 カイルは両手で目を擦り泣き喚いている。

 実際泣いてはいないだろうが、そんな素振りをしているのだ。

 ったく子供じゃあるまいし。


「うるさいなぁ、カイルくん! この3日ずっと言ってるでしょ? 何度も言ってるけど、力というのは見せびらかすものじゃないのっ 」


 さすが、神様! 説得力がある。

 本当に尊敬できる神様だ。

 ここ数日のことがなければ本当にそう思う。


「アリア! そんなカッコつけても、昨日のことは許さないんだからね! 」

「え?? なんのことかなぁぁ? 」


 お酒のせいで忘れているのかと思ったが、あの含み笑いはきっと誤魔化しているだけだろうな。

 本当酒癖の悪い神で、毎晩毎晩酔って暴れての繰り返し。

 まぁ抱きつかれたり誘惑されたりしたのは悪い気しなかったが、突然殴られなりは勘弁してほしかった。

 さらに言えば、部屋の片付けは全て俺とカイル。

 まるで雑用係だった。


 そしてティアが怒っているのはきっとあの出来事だ……。



 ◇



「あ〜よく食べた、飲んだぁぁ〜。あ〜ははっはぁぁ。 あれ、おつまみが切れたな 」


「アリア様、もうおつまみないですよ 」


 俺がそう伝えるも、彼女の気持ちは収まらない。

 彼女は机をひっくり返し、ソファを退かし、あらゆるところを探し始めた。

 そんなとこだれが隠すんだよ。


「おい、カイル!! 起きろ!! 」

「え、な……なんですか? 」

「おつまみと酒買ってこい 」

「ええ……今からですか? 」


 さっきまでイビキをかきながら眠っていたカイルを叩き起こし、パシらせようとしている。

 完全に輩だ、初めて会った時のあの美女はどこ行った……。


「そうだよ! 私が言ったら大人しく買ってくれば……あれ、おつまみあるじゃんっ 」


 嬉しそうに駆け寄る先には、同じくソファで眠っていたティアだ。


「誰だよ、こんなところにピーナッツ落としたのはぁ 」

 と嬉しそうに口へ運ぶ。


「あああっ!!! アリア様!! それ食べ物じゃ…… 」


 ゴクンッ――


 時すでに遅し。

 手段を選んでいられない、そう思って無属性エーテルバフを纏い、移動速度を上げようかと思い始めた時にはもう遅かった。

 さすが神様、食べるスピードも速い、そういうことか……。



 ◇



「ティア〜ごめんってばぁ 」

 彼女はティアに擦り寄って謝るが、当事者はもう今まで見たことないほどブチギレている。


「そりゃ怒るでしょうよっ!! なんでボクはあんたの嘔吐物として出されなきゃいけなかったのっ!!」


「ま、まぁティア、えっと……噛み砕かれなくてよかったじゃないか 」

 ごめん慰め方が分からない。


「……っ! 春陽まで想像したくなかったこと言わないでよぉ〜! 」

 彼女は怒りを通り越したのか、もう涙目だ、いや……もう泣いちゃってる。


「……えっと皆さん、お騒がせしました 」


 ミアだ。

 気づけばリビングにミアが来ていた。

 うるさくておこしてしまったかな?などと思っていたが、彼女はすっきりとした顔をしている。

 魔力量を見ても全快といったところのようだ。

 心配はないだろう。


「本当に3日で治して来るとはねぇ。 あっぱれだよ 」

 え、でもあなたが3日って言ったんだよね?

 そう思ったが、触れないでおこう。


「ミア! よかったよぉ〜」

「本当だ! 本当によかった!! 」


 ティアとカイルもミアへ駆け寄り、喜びを分かち合っている。


「さぁさぁ、ミアちゃん、庭でミッドナイトを呼び出そうか 」


「はいっ! 」


 ミアの力強い返事をきっかけに、俺たちは各自荷物を持って庭へ向かった。

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