第80話 精霊VS精霊
一足先に出たミアは魔法を詠唱している。
『深淵の力を持ちし者よ、我が横に立ち、闇の力を共に成すことを誓え。そして今こそ我が呼び声に応え、暗黒の力を解き放て 』
ちゃんと禁忌とされていた闇の精霊にも詠唱があったんだなと思ったが、そりゃ当然か。
その直後、さっきまで晴れていた空に一面雲が漂ってきた。
と思えばすぐに無色透明の空間に切り替わるという訳の分からない現象に立ち会った。
その広さ、まるで野球ができそうな広さをしている。
これなら十分に戦えるな。
そして後ろを見ると、アリア様とティアが2人何か詠唱していた。
おそらくこの空間、神様2人が生み出したものなのだろう。
「これが……闇の精霊か 」
といっても少し想像とは違った。
それもそう、闇の精霊とやらは今まで見てきた魔族に近しい姿をしていた。
それも飛びきり綺麗な女性だ。
もちろん魔族寄りなため、角は生えているし、微笑んだ時に見える歯も尖っている。
そして黒ベースの服を着ており、彼女の周囲数メートルには闇……すなわち具現化した黒い魔力が漂っている。
つまり彼女の周りは真っ黒だ。
こんなの上位魔族のダークオーダーと大差ないじゃないか……。
しかしアリア様からは手を出してはいけないと言われているし。
「春陽くん、念を押すが、手を出しては…… 」
「わかっています!! 」
焦る気持ちが言葉を強くさせた。
少し強めにアリア様へ当たってしまった気がするが、彼女そんなこと気にもせず、ミアの方を見ている。
◇
「やった。闇の精霊を呼び出せた……けど、これはほとんど魔族だ……。 でも春陽くんには頼れないし 」
(お前か……この私を呼び出したのは…… )
「そう、私が呼び出したの。 あなたにお願いがあって 」
(私を呼び出したやつが現れたのは、200年ぶりだ。そしてそいつと同じようにこの私にお前の実力を認めさせろ、それが願いを聞く条件だ。)
意外と物分かりのいいみたい。
確かカイルくんも手伝ってくれる感じだったし……。
「おい、ミア本当に呼び出したのか? 」
カイルくん、手伝いに来てくれたのかと思ったけど何を言ってるの?
「え……だって今目の前に! 」
「目の前?何を言っている? 春陽も同じようなこと言ってたが 」
(私の姿は、呼び出したものと神にしか視えないぞ )
ってことは結局私だけで戦うしかないんだね。
そもそもこれは私の力なんだから当たり前か。
不思議と自分の力だと認めたら怖くなくなってきたな。
「カイルくんは下がってて! 」
「え、ああ、わかった 」
どうやらアリア様とティア様が空間を作ってくれてるみたいだし、遠慮しなくていいみたいだね。
(いいのか、そんなに無防備で )
「……なっ!! 」
気づけば闇の精霊の周囲を纏っていた闇が私にまとわりついている。
そしてそれが大きな手のように掴んできた。
「くっ! 離…してっ! 」
(どうにかしてみろ )
全く動けない。
せめてイフリートでも召喚できていたら……。
イフリートは私の精霊魔法で初めて召喚した精霊で、1番好戦的である。
見た目は赤いドラゴンだしその頃私は幼かったから、怖くて泣きじゃくった記憶しかないな。
(ミア、呼んだか? )
「え!? この声イフリート? なんで……詠唱してないのに 」
(お前の魔力量が増えたからだろう。 ある魔力量を超すと、無詠唱で召喚できる。もちろん信頼関係あっての、だがな )
(イフリート……。めんどくさいやつが出てきたな )
(お前、ミッドナイトか、久しぶりだな )
「イフリート、闇の精霊と知り合いなの? 」
(あぁ俺たちは昔、精霊界にいたからな。ミッドナイトよぉ、主人に纏っている闇、退けてもらおうかァァァ! )
そう言ってイフリートは強力な炎を吐き出し、ミッドナイトへ放った。
すると私に纏った闇が退き、ミッドナイトへ戻っていった。
そして彼女はそれを纏い、イフリートの炎から身を守っている。
私を掴んでいた闇を防御に使ったということはあの闇、役割を一つしかこなせない可能性がある。
「よし、イフリート! ここから反撃よ! 」
(おうよ、ご主人! )
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