第73話 神技発動


「春陽! その神技じんぎでなんとかできるのか? 」

「ああ、おそらく大丈夫だけど、念のためカイルはロビーへ向かってくれないか? 」

「おう! お安いご用だっ! 」


 そう言ってカイルはものすごい速度で駆けて行った。

 あのスピードなら俺が神技を試す間がないんじゃないだろうか。

 まあそれならそれでいいんだが。


「兄さんの神技……使ってくれるんだね。 ありがとう 」

「ああ、ノクティス様にこの世界を救うって約束したからな。 そのためにはこの力が必要だ 」


 俺は目を瞑り、集中した。

 まずこの船と一体となることで感覚を共有する。

 どうもこの力は人だけでなく物にも使えるようだ。

 そして船と知覚を同化させることで、船内の音、映像全て把握することが出来るようになる。


 おっ見えてきたな。

 いくつか脳内に船内の状況が映し出される。

 えっと1階ロビーの映像は……あった!!


 どうやらその盗賊らしき人たちは4人ほどいるな。

 男3人女1人と、皆人相が悪く、動きやすく軽量な素材でできている衣服に黒いマントを全員羽織っている。

 やつらの実力は見たところその辺の魔術師より少し強いように感じる。

 もし魔術対抗試験に出場していたら文句なしの第3試験出場、といったところか。

 それじゃ船の警備部隊と冒険者じゃ話にならないわけだ。


 実際、戦況としては大きく盗賊達がリードしている。


 少しこの知覚コントロールにも慣れてきたのか、1階ロビーの声まで聞こえてきた。


『俺ら盗賊の中じゃここの警備部隊は実力が低いって有名だったが、こんなにも弱いとはな! ハハハハハッ! お前ら! 粗方ここの金品は手に入った! 長居はしたくねぇ、ずらかるぞ! 』


『『『はいっ!! 』』』


 やばいな、やつら出ていこうとしている。

 カイルもまだ来てないみたいだし。

 やつらの実力も高く、警備部隊と冒険者も容易に近づけないからか一定の距離を保っている。


 さすがに距離も遠すぎるためこの『神技』で出来ることも限られるが、やってみる価値はある。

 1階ロビーの映像の盗賊に焦点を当て、イメージをした。

 使い方は魔法と同じだから分かりやすいな。


『うわっ!! なんだ? 急に目が回って…… 』

『リーダー! 俺たちもです! 』


『なんだ? 盗賊達が急に倒れ込んだ……。 しかしこのチャンス、逃す訳にはいかない! 全部隊魔法準備! 』

『『『『炎中級魔法【⠀インフェルノブレイズ 】 』』』』


 警備部隊が放った青い炎が盗賊達に襲いかかる。


『くっ……目が回っていてもあの程度の魔法、いつでも消して……!? なんだ、反応ができな…… 』


 さすがに直撃を避けられなかったようだな。

 見事に魔法は命中したようだ。

 おそらくあのレベルの盗賊だ、目を回す程度じゃあの魔法くらい消しされるだろうと思った。

 だからこそ念の為、動体視力を遅くしておいて良かった。

 動体視力とは、動くものを視る視力のことだ。

 もちろんそれが鈍れば、反応できなくなる。


『確保ォォォォォォッ!!! 』


 よかった。

 盗賊達も気を失ったまま拘束されている。

 もう船内じゃ暴れようもないだろう。


『大丈夫ですかぁぁぁぁぁっ! ……ってあれ? 終わってる? 』


 ヒーローは遅れて登場するものだ。

 そうは言うが、間に合わないヒーローなんて見たことがない。

 自分でお願いしたものの、その場にきた彼を見てついつい笑いが込み上げてくる。

 ごめんよ、カイル。


「……陽! 春陽!! 一体どうなったの?? ボク視えないんだからちゃんと教えてくれなきゃっ! 」


 おっと視るのに集中しすぎてティアの話が全く入ってこなかった。

 能力発動中はかなりの集中力がいるということだ。

 これは一つ課題だなぁ。


「ああ、無事終わったよ。 神技もなんとか使えた 」

「おおっ!! さすが春陽だねっ! で、どんな風に使ったの? 」

「カイルが戻ってから説明するよ。 あいつも聞きたいだろうし 」


 それから約10分後にカイルが戻ってきて、そして同じタイミングで、ミアも帰ってきた。


「みんな大丈夫ですか……? 人は混雑してるし、エレベーターは使えなかったし、ここまで長い道のりでした…… 」

「それは大変だったな、ミア 」

「それより春陽! どうやって解決したんだ? 」

「……?? 」

「そうそう! ボクもそろそろ聞きたいんだけどっ! 」


 少しミアが置いてけぼりなのは可哀想だが、今回の件、俺が行ったことを3人に話をした。


 とりあえずこの神技の使い方も何となくわかった。

 まだ戦闘中に使えそうなものは分からないが、少しずつ理解していくとしよう。


 よし、せっかくだし残りの時間は大いに楽しむか。

 そう決めて4人は時間を忘れるほど船で遊び尽くした。

 

 そして次の日の朝、船は目的地へと到着したのだった。

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