第91話 転移門

 朝の強い日差しが照りつけ、外では小鳥がさえずりを奏でている……はずもなく、起きても外は真っ暗だ。


 ただ時間は朝を示している。

 今は日本でいうところの朝10時あたり。

 同じ部屋で寝ていたカイルはもう部屋にいない。

 つまりもう起きているということだ。


 寝室を出ると、みんな揃って……いや、ゼフィールの姿がないな。


「春陽! やっと起きたの?? 」


 ティアのその声にカイルとミアもこちらをみる。


「春陽さん、なんかいつも最後に起きてるような 」

 ミアは口に手を当て、可愛い笑い方をしており、


「春陽が早く起きるなんて俺はこの先もないと思うぞ!! 」

 カイルはそうやっていじってくる。


 俺だけ集中的にいじられるため、いい気はしないが、平和な朝だという証拠だな。


「おーい、お前らうるさいぞーっ! そういえばゼフィールはどっか行ったの? 」


 いじりに対してテキトーにあしらいつつ、本題に話をうつした。


「おっ! そうだ! 春陽が起きてから、ここに来てくれって地図を渡されたぞ? それからどこか行ったみたいだが! 」


「おそらく昨日話していた転移門の件でしょうね 」


「だから春陽! 早く行こっ! ボクたちはもう準備できてるよ! 」


 といって、皆それぞれ準備し終えた荷物を見せてくる。


「いつも遅くてごめんなさいね〜っ! 」


 冗談っぽく軽快に返し、俺は荷造りを始めた。



 ◇



「悪い、やっと準備できた 」


「全然大丈夫ですよ。 それより春陽さん、この地図の意味分かりますか? 」


 地図を差し出してきたミア含め皆が頭を悩ませている。


「どれどれ〜? 」


 顔を覗かせてみると、うん……たしかに地図ではあるのだが、それには矢印で示されている一軒の家のみが書かれており、それ以上の情報はない。


 矢印に『ここだ』と書いてあるが、どこなんだよ。

 まぁおそらくこの家なのだろうが。


「春陽、わかる? ボクたち全然分からないんだけど! 」


「えっと、そうだなぁ。 この家の中にあるんだろうけど……。ってそういえばカイルは?? 」


「カイルくんなら今、家中を探しているところ! 矢印が指しているのはこの家じゃないだろうか! って言ってすぐ走り出していったよ 」


 カイルにしては鋭い見解だ。

 というかそれ以外考えようがないんだけどな。


 そして建物内を探すのは最早、俺の得意分野だ。


「2人とも、ちょっと時間をくれ 」


 豪華客船の時と同じ。

 神技でこの家と感覚を共有する。

 すると、あの時のように家中の景色が脳内に映像として押し寄せてきた。


 当たり前だが、あの時の船よりは探す範囲が少ないから案外すぐに見つかったな。


「分かったぞ。 カイルもそこにいる 」


 まさか家の中にそんな広い空間があったとは。

 そしてよくカイルもそこを見つけたな。


「春陽、ここって…… 」

「本当にここなんですか? 」


 2人はそこを見て目を丸くしている。


「そうだ! ここを開けばおそらく転移門が設置されているであろう遺跡に繋がるはず 」


 2人が驚くのも無理はない。

 ここというのは、ゼフィールが昨夜眠っていた寝室にあるクローゼットのことだからだ。


「開けるぞ? 」


 2人は息を飲み、一呼吸置いてから頷いた。


 ギィィィッ――


 開いたその先には、えらく古い開き音がしたことも気にならないほどの光景が広がっている。


「「す、すごい 」」

 ミアとティアがあまりの驚きに言葉をハモらせた。


 なんというか照明がないのに明るい洞窟というか、ただ中はとても整備されているような一本道だ。

 そして側面の壁には壁画として、見た目上魔族のようなものと人が戦っている様子が描かれている。


「ティア、この壁画って魔力抗争のことか? 」


「魔族と人が接触したのはその時だからそうだろうね 」


 一本道に沿って壁画も続いているため、それを見ながら3人は前に進んでいる。


「おっ!みんな辿り着いたのか!? 」


 カイルが一足先に遺跡の中心部で待っており、ゼフィールとその場で話していた。


 ここはかなり広い場所のようだ。

 野球でもするのかと思うほどの広さ。

 そしてちょうどその真ん中に転移魔法陣のようなものがある。

 

「カイル、俺が探せたからよかったけどもちゃんと帰ってきて道案内してくれよ 」


「いやいや、俺もさっき着いてな! 」


「よし、みんな集まったか! ここはシャドウバレーに続く転移門の隠し場所だ 」


 たしかに自分の家が隠すとしたら1番安心か。

 しかし隠す理由とはなんなのだろう。


「ゼフィール、なんで隠したんだい? 」

 ティアが問う。


「あぁこれは俺の時間魔法で封印していたんだが、誰かが触れば封印が解けてしまう。 故に魔族の出入りに自由になってしまうんだ。 そうなったらこの街も困るだろ? 」


 すると、突然中心にある魔法陣が光出した。


「おっ! ちょうど封印が解けたか。 ……いや、この光り方は、誰か転移門でこっちに来てる!? 」


 こっちに来ているということは、シャドウバレー側にある転移門を使ってということか?

 つまり必然と誰が使用しているのか限られてくるな。


 そして光りの先に3人の人影が突然現れた。


 人……いや、あの魔力おそらく魔族だ。

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