第89話 ゼフィール・シャドウウィスパー

 嫌な魔力、さっきまでこのゼフィールという男は魔力を隠していた。

 そもそも魔力を隠すことができる芸当、そんなことができるのは俺が知っている中ではエレナだけだ。


 つまりやつは魔族、もしくはそれに近い存在。

 やつの魔力からもそれに近しいものを感じる。


「お前、さっきシャドウバレーがどうとか言ってたな? 」


「はい、そこに行きたくて 」


「何をしに? 」


 ゼフィールは強力な魔力を放ちながら、ドスの効いた声で問いかけてきた。

 風貌もそうだが、その低い声がより厳つさを醸し出している。


 その迫力に少し引けを取りそうだが、俺も負けじと答える。


「友達を助けに! 」


「そうか、友達か……。 しかしシャドウバレーへの通路は俺が塞いだ。 もちろん少し時間はかかるが、再び開くこともできる。 この俺、『ゼフィール・シャドウウィスパー』を実力で封じ込めることができたなら考えてやらんでもないが。 どうだ? 」


 俺を試しているのか、不適な笑みを浮かべている。


 なるほど。シャドウウィスパーということはやはり魔族。

 ……シャドウウィスパー?

 待てよ、なんか聞いたことないあるような。


 すると、俺の服からパタパタッと突然出てきたセレスティアが、


「春陽! シャドウウィスパーってエレナの! 」


「あ、そうか! エレナと同じだ! 」


 喉元に引っかかっていた何かがポロッと取れたくらいにスッキリした。

 そういえばエレナの性と一緒じゃないか。


「……お前ら、今なんて言った? 」


 さっきまでの風貌とは違い、ゼフィロスは今にも泣き出しそうな表情で目の前にきた。


「えっと、エレナって 」


「そうだエレナだ! おい、小僧! エレナ!エレナはどこだ!? 」

 俺の両肩を掴み、ゼフィールは激しく揺すってくる。


「エレナは……そのシャドウバレーに攫われれて…… 」


 この言葉を聞いたゼフィールは肩を落として、

「そうか……。 君たちは娘を助けに行こうとしてくれてるんだな 」


 やっぱりこの人はエレナのお父さんみたいだ。


「うっし! じゃあお前ら! うちに来い! 」


 そしてゼフィールは満面の笑みでそう口にしたのだ。



 ◇


 俺はあれからミア、カイルと合流し、ゼフィール家に招かれた。

 といってもひとり暮らしらしいが。

 そして俺がここに来た時から今までの話をしたのだった。


 「ハハハハハ――ッ! それでお前、エレナと旅に出たってわけか! 」


「いや、ほんと困りましたよ 」


「春陽さん、お父さんの前でそんなこと言っちゃだめです! エレナちゃんいい子ですよ〜! 」


「そうだぞ! エレナお嬢は楽しいムードメーカーだ! 」


「春陽にベタベタするからボクは嫌いだけどね! 」


「そうかぁ! 神様にはどうも嫌われてるらしいが、エレナにはこんなに面白い友達ができたんだな。 お父さん嬉しいぞ! 」


 ギルドではあんなに殺気を放っていたのに、今は友達の家のお父さんみたいな優しいオーラを奏でている。


「で、お前たちはエレナを助けに行くってことか。 ……その旅、俺にも付き合わせてくれねぇか? 」


 それは願ってもない相談だ。

 ゼフィールが力を貸してくれるってなるなら戦力も格段に増えたといってもいいだろう。


「でもゼフィールさん、良いんですか? 俺がギルドに行った時はシャドウバレーって言葉が厳禁だったってことは関わりたくないんですよね? 」


「春陽、敬語なんていらねぇよ。 もちろんシャドウバレーに関わりたくないのは間違いない。 なんせ俺はダークオーダーから逃げてここに来たんだからな。 だが、娘の命に比べちゃそんなのちっぽけなことだぜ! 」


「ありがとう、ゼフィール! なら転移門の場所も? 」


「ああ、ちょっと使えるようになるまで1週間くらいはかかるけどな 」


「でも、ゼフィール 」

 ティアが彼に声をかけた。


「なんだ?? 」


「君はエレナから死んだと聞かされているんだ。 仲間の上位魔族に殺されてってね。 何があったの? 」


「……そうだな。 まずはそれを話さなきゃだな 」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る