第114話 新しい神の誕生
「あれ? 君会ったことあったっけ? よく僕の名前が分かったね。 あ、さっきナコが呼んでたから? いや〜それにしては君から強い殺意を感じるけど何があったんだろう? 」
マルコスは明るく無邪気な声でそう話している。
まるで本当に10歳くらいの男の子のように。
ノクティス様のことだ!って言いたいところだが、あの時はノクティス様の神技で俺達のことを隠してくれてるんだった。
そう考えると彼が俺のことを知らないのは当然か。
ならその件は隠している方が良い。
「いや、初対面だよ 」
「あ〜君からノクティスの魔力を感じるな〜? つまり僕が彼を殺した時、そばに居たんだね 」
マルコスは変わらず笑顔を向けてくる。
とてつもなく不気味ではあるが、恐怖を感じない。
それはあの時のような強い魔力が伝わってこないからだ。
「さぁ、なんのことだ? 」
隠し切れるか分からないが、とりあえず白を切ってみた。
「ふ〜ん、そういうことにしといてあげるっ! どちらにせよ君を殺せば分かることだ 」
「俺も神マルコスに用事がある。 ここで決着をつけようか! 」
するとまたも無邪気な様子で、
「あ〜待って待って、君も僕の魔力感じとっただろ? 今の僕を殺しても何にも解決しないよ? 」
そう言ってきた。
「ん? どういうことだ 」
「だって僕、もうマルコス・グリモアハートじゃないんだもん 」
こいつがマルコスじゃない?
いや、名前が変わることなんてそんなこと……。
――!?
ふとゼフィロスの話を思い出した。
魔族神の力は引き継いでいく。
引き継いだものはマルコス・グリモアハートと名乗る。
それと同時に嫌な予感がした。
「マルコス……もしかしてエレナが…… 」
「だから僕はマルコスじゃないって。 でも君、察しがいいね! あちらが新しいマルコス・グリモアハートだよ 」
マルコスが手を差す方にはもちろんエレナがいて、彼女からは莫大な魔力と今までとは違う角と尻尾が生えていた。
以前見たマルコスのものと同様だ。
そして彼女はゆっくりと顔を上げる。
その顔は以前と少し違う。
明確には同じだがなんというか異常に青ざめており、右頬から首にかけてまっすぐ呪印のような跡があるのだ。
「うあうあおう…… 」
エレナが小さな声で何か言った。
何かとは聞き取れなかったというわけではなく、そもそも発した言葉の意味が分からない。
ちゃんとした言語になっていないという感じだった。
「エレナ……どうしたんだ……? 」
「あ〜彼女はまだ神の力に適応できてないんだよ。 僕の魔力全て注ぎ込んだから当たり前か! 」
マルコス……なんてことを。
つまり彼女は突然の魔力供給量に身体がついてこず、暴走してしまっているということか。
「おい、元に戻す方法は? 」
知ってるとしたらこうなった原因のお前だけだ。
頼む、知っていてくれ。
「さぁ? 少しずつ慣れてくんじゃない? 」
「う……おああうえい…… 」
エレナは胸を苦しそうに抑えて呻いている。
「くそぉ……。 どうしたらいいんだっ! 」
するとエレナは、聞いたこともないほど大きな叫喚で、
「うあ――――っ!!!! 」
そう叫ぶと同時に、この室内にも大きく響き、まるで地震が起きたかのように揺れ始める。
ゴゴゴゴッ――
その勢いで、この部屋の壁にもヒビが入り始めた。
「うわっ! これヤバいっ! ナコ、大丈夫か? 」
そうナコを方を見て言うと彼女は揺れに対して支えきれずへたり込みながら、
「だ、大丈夫ですよ〜〜〜 」
声を震わせながらそう口にした。
つまり大丈夫ではないんだろう。
「これ、建物崩れるんじゃないか? 」
「この建物はそんなヤワじゃないから大丈夫だと思うよ 」
建物内の揺れに対して、当たり前だと言わんばかりに耐えられず転がり回っているマルコス……いや、元マルコスはそう自信満々に言っている。
「お、おいおい! 大丈夫か? 」
「あぁ、元神様なんだ。 もちろんさっ! 」
親指を立ててはにかんでくるが、傍から見ると幼い子供が転がっているようにしか見えない。
仕方ない、ちょっと助けてやるか。
「おぉ――――――っ!! 」
またエレナが叫んでいる。
苦しいのか?
すぐ助けてあげられなくてごめん。
「春っち様!!! 危ないです!! 」
へたり込んでいるナコが俺に向かって叫んでいる。
急いでエレナの方を見ると、彼女の咆哮が強い衝撃波として迫ってくる。
そしてその先にいるのは元マルコスだ。
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