第115話 屋敷の崩壊
彼女の強い咆哮は、元マルコスへ迫る。
「わぁお 」
当の本人はこの部屋の揺れにより、へたり込んだままあっけらかんとしている。
しかし彼に死んでもらっては困る。
エレナの意識の戻し方を実は知っているかもしれないし。
その可能性はどうしても捨てきれない。
「仕方ないなっ!! 」
俺は彼女が創り出した衝撃波よりも速く動き、元マルコスを抱えて避けた。
「えっ!? どうして……? 」
元マルコスは俺の腕の中で首を傾げている。
もちろんエレナを助けるためという打算的な気持ちが大きい。
しかしそれだけではなく、彼はどう見ても小さな子供だ。
中身がどうにしても、もしかしたら彼も今のエレナと同じように無理やり引き継がされた力かもしれない、そんなこと思ったら自然に庇っていた。
「エレナを助けることができるかもしれない、そんな気持ちもあるが、元マルコス……俺はお前のことも知りたい。 魔族神になる前のな 」
俺がそう伝えると元マルコスは微笑みながら、
「そっか。それと僕は元マルコスじゃないよ。 ジークっていう名前があるんだ 」
そう言って名前を教えてくれた。
「そうか、ジーク! 」
やっぱり神じゃなくなったこいつは子供にしか見えないな。
俺は抱えたジークを下ろし頭を撫で回すと、彼は「へへっ」と少し照れる姿を見せた。
とりあえずジークは守れた。
たださっきの咆哮による衝撃波により、この部屋の壁が何部屋も先まで貫通していっている。
ただの叫び声でこれはすごい力だな。
そして次のエレナの咆哮は上を向く。
さっきと同様に天井の壁も貫通していった。
これはまず暴走を抑えないと。
そう思って俺は『魔人化』を行った。
「うわぁぁぁぁぁぁぁ――っ!!! 」
するとエレナは更に強い咆哮と共に莫大な闇エネルギーを纏い始めた。
あれも魔人化か……?
俺がそう思ったのは、今まで見た魔人化とは纏っている闇エネルギーの総量が違うからだ。
具体的に言うと、彼女の纏っているそれは彼女が纏うというよりも大きな闇エネルギーの塊の中心に彼女がいるという感じ。
なんとも説明しづらいが、それほどまでに大きなエネルギーの中に彼女がいるのだ。
これだと彼女が闇エネルギーに操られていると言っても過言ではない。
俺はあれと戦って勝てるのだろうか。
そんな相手が今迫ってこようとしている。
「うううっ!!! 」
いや、迫ってきた。
闇エネルギーの塊が。
「ジーク、ナコ!!! 逃げろ!!! 」
襲ってきた闇エネルギーを魔人化した俺の力で受け止める。
「でも……春っち様!! 」
「ナコ!! これを止められるのもそう長くない。 ジークを連れて早く隠れてくれ!! 」
「……わ、わかりました! 」
そう言ってすぐ、ナコの気配がかなり遠くまで移動していったのを感じる。
「う、うう……。 押さえつけるのも限界か…… 」
チリチリッ――
ヤバい、闇エネルギー同士が反発しあっている!
ドカンッ――
俺とエレナの間で爆発のようなものが起きて、お互いぶっ飛ばされた。
それだけならまだ良かったが、さすがにここも普通の建物。
さっきも咆哮で壁が貫通したのもあってか、一瞬で建物が崩壊していった。
一瞬で外の景色が露出されたが、想像とは違う景色が広がっている。
「なんだ……これ……? 」
「ここがシャドウバレーだよ? 永遠に続く広い荒野、この土地にはそれがあるだけなんだ 」
一足先に外へ出ていたジークがナコに抱えられながらそう言ってきた。
「2人とも無事でよかった! 」
「はい! それより春っち様、あのエレナ様を助けることが出来るかもしれません! ほらジーク様! 」
ナコはそう言いながらジークを地に下ろす。
「あーはいはい、ちょっとエレナには早かったかもだし、もっかい僕に力を戻すかなぁ…… 」
「おい、そんなことできるのか? 」
方法があるなら先に言ってくれよ。
「だけど、もっかい鎖に繋がなきゃなんだ〜。 もう僕にはあの鎖創れないしね 」
なるほど。
そりゃ困ったもんだ。
ボカンッ――
突然の爆音と共に崩れた屋敷の瓦礫が弾け飛んで、中からはさっきの莫大な闇エネルギーを纏ったエレナが飛び出してきた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます