第64話 神の懸念
ミアはナイトフォールという街の名前を知っているようだが、どうやらカイルも知っているのかいつもより少し青ざめた顔をしており、口をパクパクさせている。
「2人ともナイトフォールって街知ってるのか? 」
「し、知ってるもなにも、昔からある都市伝説みたいなものです……。 親に子供の頃から、悪いことをすると死神がナイトフォールに連れていっちゃうよ、と何度脅されたことか…… 」
「あ、ああ……。 昔から何度も脅されているからかその名前を聞くと少し反応してしまってな 」
なるほど。
現実世界でいうナマハゲや鬼、カミナリ様みたいなものだろうか。
確かに子供の頃、おへそが取られるやら鬼の世界に連れてかれるやら脅されたもんだ。
しかしこの歳になってまで引きずっているというのは一体どういうことだろう?
俺たちの世界には存在しないものを例えているから大人になるにつれて怖さがなくなるのだが、もしかしたらこちらの世界では魔法や神、魔族と俺たちが存在しないと思っていたものが存在している世界だ。
そんな世界の都市伝説、何がほんとで嘘か分からなくなりそうでもある。
そう無理やりに、こじつけることもできるな。
「で、ノクティス様。 そのナイトフォールとはどうやって行けるのでしょうか? 」
「……!? 春陽さん、本当に行くんですか……? 」
「……ミ、ミア!! わ、がままを……い、言うんじゃない!!!」
2人とも本当に怖いんだろうな。
ミアは堂々と震えており、カイルに至っては明らかに強がっている。
俺にはその怖さが今のところ分からない。
まぁ俺はこの世界に来て、この世界の魔力を使えるわけで、それ以上に魔力を持ったもの以外に恐怖を感じなくなっているという事実はあるのだが。
その怖さが例え分かったとしてもエレナは大切な仲間だ。
助けに行く以外の選択肢が思いつかない。
「2人は無理しなくても大丈夫だよ。 ここまでついてきてくれただけでも感謝してる。 だから俺1人ででもエレナを助けに行く! 」
「春陽、ボクもいるから2人で、だよっ!! 」
「ティア、ありがとう 」
いつの間にかノクティス様の拘束が解かれたようで、いつもより心做しか爽快な顔で俺のそばにいた。
「……春陽さん、弱気になってごめんなさい! 私もエレナちゃんを助けたい! 」
「ああ! 俺だって力になりたい! そのためについてきたんだ! 」
「カイルくんは無理せず帰っていいんだよ〜? 」
「……そ、そんなわけにいかない! ミアこそ震えてるんじゃないのか? 」
気づけば2人に笑顔が戻り、珍しくお互いをいじるような言い合いをしている。
そして覚悟を決めた、そんな佇まいだ。
2人は子供の頃から一緒みたいだし、特別な仲良さがあるのかもしれないな。
……その仲良さ、羨ましくもある。
でも何にせよ、2人の不安は消し去ったようでよかった。
「どうやら皆、覚悟したみたいだな。 しかしナイトフォールか…… 」
やはりノクティス様はあまり行って欲しくない、そんな懸念を抱いているようだ。
神の視点からみて、俺たちの実力では到底困難な場所とでもいうのだろうか。
「ノクティス様、俺たちどうしても行きたいんです 」
そう再び頼み込むと、彼は
「……だ、だってぇ、ティアたんも行くんでしょ〜? 」
……驚異的に整った容姿がもったいない。
神が情けない姿で嘆いている。
尚、セレスティアはもう掴まる気はないためか、彼は泣きながら、セレスティアが写った写真を眺めたり頬ずりしたりしている。
あれはある一種の変態なんだろうな。
そして彼は俺たちの心配ではなく、セレスティアの心配だけだったようだ。
「……に、兄さん、心配してくれてありがとう…… 」
セレスティアはちょっと……いや、めちゃくちゃ引いている。
「ティアたんに何かあっだらと思っだら悲しぐでぇぇ……」
「大丈夫だよ! 何かあったら自分の空間に戻るからさ! 」
それを聞くと、ノクティス様はふと泣き止んだ。
あ、その手があったか、そんな顔をしている。
「そうだ! 何か危険だなと思ったらすぐ逃げ込むんだぞ? 人間なんてどうせ死ぬ! そんなヤツらほっといて自分だけ隠れるんだ! いいな? 」
ものすごい怒涛の悪口。
神様とは思えないくらい本音がダダ漏れだ。
……まぁセレスティアが上手いこといってくれたおかげで教えてもらえそうだな。
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