第18話 神アーカシスの領域


久しぶりに目の前がガラッと変わる感覚。

 これは転移でしか味わえない感覚なんだな。

 実はちょっとクセになりつつある。


 で、周りの景色は……図書館?

 ぽつんと部屋の真ん中に机があり、そこで本を読んでる男性がいる。

 メガネをかけた好青年という感じだ。

 真ん中の机を囲うように本棚が大きな円を作って並んでいるというような配置だ。

 こんなにたくさんの本があったら読むのに飽きないだろうね。


「ようやくきたか、遅いぞ〜セレスティア」

 

 おそらくセレスティアをからかうようにそう言ったのが、神アーカシスだろう。

 あれは人をいじるのが楽しいー!という顔だ。

 あーゆー顔をしてる友達を現実世界ではよく目にした。

 きっとSっ気が強い神様なのだろう。


「魔力障壁を通るのが大変だったんだから仕方ないじゃないか! 」


「で、君が春陽くんかい? 」


 セレスティアの返しには一切触れることなく、アーカシスの興味はこちらに回ってきたようだ。

 俺を視線を向けてくるその神は不気味な笑みを含んでいるような気がする。

 何か面白いことを企んでいるような……いや、俺の気のせいならいいんだが。


「はい、よろしくお願いしますアーカシス様 」


「アーカシス! 挨拶は済んだし、ボクたちの話を聞いて 」


 彼はセレスティアの話に全く興味がない様子で、視線を一切俺からずらさない。

 怖いよ……。なんですか、アーカシス様……。


「それより春陽くん、もうすぐ魔術対抗試験があるんだけど出てみない? 」


 もうほんとに話そっちのけだ。

 そのせいでうちの神様はどんどん機嫌が悪くなっており、今にもこの領域内に大災害と言われるような地震が起きそうなほどプルプルと全身を震わせている。

 そんなセレスティアを見てアーカシスは、仕方なしにと言わんばかりに視線を彼女に戻した。


「まぁ待てよ、セレスティア。 お前が何を話したいかは検討がつく。 魔族関係だろ? シルヴァンディア全体に張った魔力障壁も効果が薄まりつつあるしな 」


 シルヴァンディアに魔力障壁?

 待ってくれ、俺が話についていけない……。

 とりあえずアーカシスの興味が俺に向いてくれてるうちに説明してもらいたい。


「アーカシス様、その……魔力障壁の話含め、魔族について知ってること教えて頂けませんか? その後に魔術対抗試験の話でもなんでも聞きますから 」


「おっと、それはいいな! ではぜひ教えてやろう 」


 アーカシスは丁寧に教えてくれた。

 つまり話をまとめるとこうだ。

 200年前の魔力抗争後、魔族がシルヴァンディアに入れないようこの世界全体に魔力障壁を張った。

 それは生き残った神4人の魔力を使うことで成功したのだが200年経った今その効力が薄れており、こんなに早く効果がなくなるのはありえない。

 そしてアーカシスの見解では中から魔力障壁に妨害を加えているやつがいる、つまり裏切り者がいる可能性が高い。

 さらに魔力障壁に干渉できるものは神だけだということから、現在裏切り者候補は生き残りの神4人のうちの誰かということになる。

 ちなみに魔力抗争後、なぜか1度だけアルカナに魔族が侵入してきたことがあり、街は再び戦場となった。

 魔族は2体いて、アルカナにはその頃精鋭揃いだったため、なんとか倒すことができたが、アーカシスはこのようなことがないように魔力障壁をアルカナの街全体にも張り巡らせたそうだ。

 なるほど。昔そういうことがあったから俺たちは街を強行突破し、シリウスに追いかけられる羽目になったのか。


「なるほど……。分かりやすい説明ありがとうございました! 」


「君は理解力がいいね、それよりセレスティア! 裏切り者探しを手伝わせておいて、春陽くんに魔法障壁の話をしてなかったのかい? 」


「いや、こんなに早く効果が薄れてるなんて知らなくて……。 後々話そうとは思ってたさ 」


「魔力障壁を確認してなかっただと? セレスティア! ちょっとこっちこい! 久々にお説教だ! 」


「ひっ……」


 小さな身体の彼女は悲鳴と共にアーカシスに掴まれた。

 もちろん逃げ場はなく神同士は強制的に向かい合わされ、お説教を受ける形となった。

 先ほどはセレスティアが怒っていたような気がしたが、突然に立場逆転である。

 まぁ人生は何事においても急だと言うことだな。

 でもそれだけ魔力障壁を定期的に確認することは神にとって大事なことだったのだろう。

 説教の間、一応気をつかってか俺から距離をとっているが、話の内容は丸聞こえである。

 魔族は危険だ、魔力障壁がないと魔族がやってくる、だから確認しろと散々……などなど。

 セレスティアを見ると、しっぽを巻いている犬のようにしょんぼりとした様子をしており、滅多に見ることのないであろうその光景を見て俺は少し笑ってしまいそうになった。

 しかし傍から見ると妹を叱っている兄のようにも見える。

 そう見えるのはアーカシスの説教に少し愛があるように感じたからだ。

 言い方はきついが、セレスティアのことを心配してのことなのだろう。


 話が終わったのか2人は俺のそばへやってきた。

 セレスティアはシュンっとした表情で俺の右肩に腰を掛けている。

 アーカシスはというと楽しそうな顔で、


「さて、魔術対抗試験の話をしよっか! 」


 ……彼は切り替えの早い男であった。

 

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