第20話 長かった1日の終わり

 元の部屋だ。

 ようやく戻ってきた。


「あぁぁ、また負けたぁぁ」


 エレナの悔しそうな叫び声が聞こえてきた。

 彼女の向かいにはアリアンサが勝ち誇った顔で笑っている。

 しかしあくまで上品で気品のある、そんな笑い方をしている。


 彼女たちの手元を覗いてみると、チェス?みたいなものが展開されており、ルールは特に分からないが圧倒的に黒が盤面を支配している。

 おそらくアリアンサが黒の駒を使っているのだろう。

 そもそもエレナが頭脳的なゲームで勝っているところを想像できないのだが。


「おー! 帰ってきたか!! 帰ってきて早々だけど行くぞ! 」


 戻ってきて1番に声をかけてきたのは、カイルであった。

 いったい行くってどこに行くんだ。

 俺が全く事態が飲み込めていない、そんな表情をしていたのか、カイルはさらに説明を付け加えた。


「寮だよ! もうこんな時間だし、学院長が春陽たちの部屋用意してくれたんだぜ!」


 なるほどな。

 そうか、なんか1日バタバタしていたからもう日が暮れていたことを忘れていた。

 時間帯を理解したからか体内時計が急にバチッと整った感覚がし、直後に睡魔が襲ってきたようだ。

 人間の身体とはなんと単純なことだろうか。

 そうと決まれば早く部屋に案内してもらおう。

 もちろん学院長には感謝の気持ちを忘れずに。


「エレナはもちろん主様と一緒の部屋だよね? 」


 先程までアリアンサに負かされて唸っていた小さな魔族は気づけば隣から俺をキラキラとした目で見上げてきていた。

 もう勝負はいいのだろうか。

 というかそもそも同じ部屋はありえない、この子また種族は違えど俺が男で自分が女であることを把握しているのだろうかと思わせる発言をこの子はしている。


「それは無理なお願いだよ。エレナは女子寮で、ボクが春陽と同じ部屋だよね? なんたってボクは神様だからさ! 」


 この神様も何をエレナと競っているんだ。

 しかも自分は神なんだから領域内で寝てくれよ。


「エレナ様には女子寮の1部屋を準備させて頂いておりますので、ミアに案内してもらってくださいね〜。 そしてセレスティア様、アーカシス様からの伝言で、自分の領域で寝るように。自分が魔族から狙われている対象だと自覚しろ、とのことです。 」


 アリアンサの優しい口調の裏には、どうにも本能的に逆らってはいけないと思わせる何かを感じるのだ。

 エレナもそれを感じているようで、いつもなら駄々をこねそうなところを大人しく首を縦を振っている。

 セレスティアは……アーカシスに恐怖を感じているのだろう。

 それ以上は何も言わず大人しくなった。


 ◇


 ミアはエレナを、カイルは俺を寮に案内し、セレスティアは大人しく領域内に転移したところだ。

 部屋を用意するというのだから1人部屋かと思えば、どうやら相部屋というやつらしい。


「はっはっはっ! 俺の部屋だが気にするな!! 」


 まぁ新しい街に新しい部屋、もし1人だったら落ち着かなかっただろうし、カイルがいてむしろ良かったのかもしれないな。

 俺たちは少しの間、たわいのない話をした後、明日に備えて眠ることにした。


 ◇


 目が覚めた。

 えーっと今何時くらいだろう。

 この部屋にある壁がけ時計を見ると、12時を指している。

 ちなみにこの世界の時間軸も現実世界とほとんど同じもののようだ。

 これは、俺がいた現実世界と密接な関わりがあるからなのか、よく分かっていない。


「春陽よ! やっと起きたかっ! 早く準備するのだ! 」


 相変わらずカイルは説明もなく、急かすのが上手いようだ。

 彼はすでに制服姿となっており、準備体操をしている。

 こやつはどこに行くつもりなんだ。


「えっとカイル? いったいどこに……? 」


「何って昨日寝る前に春陽が行きたいって言ってたじゃないか! ギルドに行くんだろ? 」


 あぁ、そういえば寝る前に冒険者について話を聞いたんだったか。

 確か冒険者ってのはギルドでクエストを受けることができ、そのクエストには難易度の低いCから最高難易度のSランクまでがあるっていってたっけ。

 ギルドでは適正難易度を図るギルド試験というものがあって、その試験によって冒険者の適正を判断してもらえるらしいから受けてみたいなぁとは言ったけど、まさか今日とは思わなかった。

 でも2日後に控えた魔術対抗試験まですることもないし行ってみるか。


「よし、行こうか! 」


 この後、寝起きが悪かったらしいエレナを頑張って引っ張ってきてくれたミアと共に、ギルドへ向かうこととなった。

 

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