第128話 5年後



 あれから5年の月日が流れた――


 シャドウバレーの戦いの後、セレスティアは持っていた3つ分の神の魔力を明け渡すことで再び神は7人となった。

 そして以前のようにシルヴァンディアを7つに区分けし、それぞれ担当の神が統治することになったのだ。


 シャドウバレーに関してはセレスティアが担当してからは他種族との交流を少しずつ増やして、わだかまりがなくなりつつある。

 さすが、彼女は優秀な神なんだな。


 ちなみに俺が引き継いだノクティス様の力は別の神様に引き継いだ。

 世界を統治するなんて俺には性に合わない。


 そんな俺はというと、


「ハルさん、お願いしますよ。空いてる時間に少しだけでいいのです。あと2コマ、いや1コマでいいんです。臨時講師の仕事増やせませんかね? 」


 今俺に交渉を持ちかけているのはエーテル魔法学院の若い青年講師だ。

 アリアンサ学院長に頼まれたらしく、ここに来たらしい。

 なら学院長直々に来てくれよと思ったが、彼女は今相当忙しいみたいだ。


「いや〜今俺も結構忙しくてね、一応今3コマくらい講義してるじゃん? それじゃダメなの? 」


「もちろんハルさんが今アルカナで冒険者ギルドの代表をされているのは承知の上です。ですが、春陽さんの魔法講義を受けたいと在学生はもちろん入学希望も後を断たないのですよ 」


 そう、俺は今アルカナで冒険者ギルドの代表として経営をしている。

 2年前、ある依頼を完遂してアリアンサ学院長から直々に抜擢されたことがきっかけだ。

 その業務の合間に講義もしてくれって頼まれたので、バイトの講師みたいなこともしている。


「ん〜そうだな……。じゃあさ、今冒険者の申請許可とったり、ギルド認定試験とかも立て込んだりしてて……人手貸してくれたり? それなら考えないことも…… 」


「も、もちろん!!! 何人でも人手を増やせますよ! それもとびっきり優秀な人をご用意します! 」


 彼は俺の言葉に食い気味に返事をしてくる。

 俺は自分の仕事を少し押し付けるような提案をしたわけだが、まさかそれを受け入れられるとは思わなかった。

 しかしアリアンサ学院長にもアーカシス様にも恩がある。


「まぁ……仕方ないな 」


「あ、ありがとうございます――っ!! 」



 ◇


 仕事が終わった俺は自宅へと帰ってきた。

 結局現実世界へは帰る方法も分からなかった。

 しかもシルヴァンディアには大切な人もいるため結果良かったのかもしれない。

 こっちの生活、楽しいしね。


「はぁ……。結局そんなこんなでまた講義が増えそうなんだよ 」


「ハルさん、また断れなかったんですか? 」


「まぁお世話になってるから無碍に断れないよ 」


「そっか。 でもそんなハルさんを好きになったんだけどね 」


 今食卓に並んでいる美味しそうな食事を食べながら話を聞いてくれているのは、俺の妻にあたる人『ミア』である。

 俺はこっちでの姓を持たず、家族もいない。

 だから彼女の家族に入らせてもらう形をとった。

 つまり婿養子というやつである。

 それから俺の名前は『ハル・ローズ』となった。


 そしてそんな妻は結婚した今でもこんな可愛いことを言ってくる。

 いや、結婚してからより甘えてくるようになった。

 これが結婚……というやつか。

 もう結婚して3年は経つが、俺の彼女を好きな気持ちは衰えることを知らないようだ。


「またミアはそんな可愛いこと言って! 夜は俺に襲われたいのかな? 」


「えーダメダメっ! そんなことしたらお腹の中の赤ちゃんがびっくりしちゃうよ? 」


 そうだ、俺はパパになるのだ。

 立派なパパになる、こんなエッチなことばっかり言っててはいけない。

 そんなことを思いながらついついミアに手が触れる。


「だからダメって言ってるでしょっ! めっ! 」


「えー残念…… 」


 全く怒った顔も可愛いとはどういうことだ。

 でもこういう時は一応落ち込んだ顔をしている。


「じゃ、じゃあお風呂くらいなら…… 」


 そう言って照れた顔でミアは提案してくれる。


「わかりました! ではお食事も片付けましょう!! 」


「ええっ!? なんでそんな積極的なのよ…… 」


 こんな感じでいつも我が家は日々が過ぎていくのだ。


 そして明日はエーテル魔術学院へアリアンサ学院長に会いに行く。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る