第112話 この部屋の先には
「人間に戻りたいかだって? 戻りたいか戻りたくないかで言えば戻りたい。 しかしそれはできないことを僕は知っている 」
なんだ?
フォーミュラーは他のダークオーダーと違って驚いている様子もない。
むしろ人間だったことを知っていて、戻ろうとしたことのあると言ったような口ぶりだ。
「フォーミュラー、もしかして自分が人間だったことを知っているのか? 」
「あぁ、闇のエネルギーによって魔族にされたこともね。 僕は感覚を司る。 自分の感覚も操作できるから、一度だけ自分の記憶について探ったことがあってね。 その時見た記憶がちょうど魔族にされたところだったんだ。 それから僕は色んなことを調べたり、試したりしたが、どうも人間に戻れそうになかった 」
すると、ナコが駆け寄ってきて、
「フォーミュラー! 大丈夫だよ! この人が人間に戻してくれるんだ! 実際、お兄ちゃんも人間に戻ったんだよ! 今は部屋で眠っているけど 」
「そうか……。 でも僕は今の暮らしも気に入っているんだ。 寿命だって長いし、なんたって強い。 人間に戻ったところで、僕が人間だった頃に生きていた人なんて皆死んでる 」
そうか。
そりゃ魔族にされたのは何百年も前だろうし、今更人間に戻ったところで会いたい人に会えるわけでもない。
もしかしたら人間に戻してやりたいってのも俺のエゴなのかもしてないな。
「でもさ、ちょっと考えてみるよ。 部屋でゆっくりとね。 あ、そうだ。 エレナ様はこの部屋の先にいるよ。 まぁ僕が教えなくても自然に辿り着けたわけだけど。 じゃ〜ね〜 」
そう言うなり、フォーミュラーは闇のエネルギーを纏ってどこかへ転移していった。
「あぁ、フォーミュラーありがとう 」
消えた後なので、聞こえたかどうか分からないが、一応お礼を言っておく。
「我が主……この先にエレナ様がいるんですね 」
ナコは俺の横に並び、そう口にした。
なんだか、仲間がいると思うと心強いな。
こうしているとミアとカイルを思い出す。
別れてそんな時間も経過していないが、少し心寂しくなった。
向こうは大丈夫だろうか。
いや、心配しても仕方がない。
俺は俺のできることをここでする、それだけだ。
「そうだな。それとナコさん? その我が主ってやめません? 」
そう言うとナコは不服そうに、
「え〜じゃあなんて呼べばいいんですか? 」
頬を膨らませてそう言ってきた。
「あ〜そうだな〜 」
俺のことはみんな春陽って呼ぶし、それでもいいけど、なんかこの子は俺が現実世界にいる時にいた幼馴染に似ている。
見た目もそうだが、声色とか雰囲気?話している感じもそうだ。
その子は『瑠璃』って子で確か俺のことを『春っち』って呼んでいたな。
「じゃあ春っちで 」
つい懐かしんでしまったが故に昔のあだ名が出てきた。
……やっぱりそれを呼ばせるのは少々痛いやつな気もするな。
やっぱりやめよう。
「あ、ごめん、やっぱり…… 」
「春っち様! いいですね! なんか呼びやすくて! あと懐かしい響きもするし! 」
なぜか彼女は受け入れたらしい。
けど様はどうしても抜けないようだ。
まぁ主じゃないならなんでもいいか。
「え、あぁナコさんがいいなら。 後懐かしいって? 」
「んー自分でもよく分かりません。 夢をよく見るって言ったじゃないですか? そこで何回か聞いた気も……。 あ、それと春っちもナコって呼んでくださいっ! 」
少し恥ずかしそうに身体をクネクネとさせている。
「わ、わかったよ、ナコ 」
なぜだか不思議と照れる。
ミアやティア、セリア今まで会ってきた女性に対しては特に気にせず名前で呼んでいたが、ナコの場合は少し気恥かしい感じがするんだよな。
まぁきっと慣れてくるだろう。
「春っち様、先……行きますか? 」
ナコは先に進むことに対して緊張しているのか、少しソワソワしているように見える。
それを見るとなんだか俺も緊張してくるな。
「そうだな。 いくか 」
いや、緊張してる場合じゃない。
この先にはエレナがいる。
待っててくれ、エレナ。
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