第46話 暴走
嫌な予感とは言うまでもない。
俺は今神龍アウロラの魔力を宿している。
そのおかげかこの地下演習場全体の魔力を感じることができるようだ。
ヴォルガンが命を落とした瞬間、今目の前にある魔力は消失したが、それと同時に別の場所で魔力量が増大した。
「……もしかして、ケビンか!? 」
それはケビンとライラが戦闘中の場所だ。
魔力を感じるが故にライラがまだ戦っていることが分かる。
しかし魔力量が増大したケビンにライラが勝てるのか?
「……ライラの魔力が消えかかっている!? 」
急いで向かっているが、間に合うのか。
いや、間に合わせる!
「ようやく着いた…… 」
「ですが、少し遅かったようですね。 ライラという女性、魔道士として確かに最強格でしたが、所詮は人間。 ヴォルガンさんの魔力を引き継いだボクからしたら赤子を捻るも同然 」
ライラの腹部は貫通しており、うつ伏せていた。
そして辺り一面が血で染まっている。
「……ライラ!!! 」
急いで駆け寄ったが、まだなんとか息もあるようだ。
よかった、これなら治せるかもしれない。
「
よし、腹部に空いた穴も塞がったぞ。
「……!? しかしながら、アナタだけは人間から逸脱しているようですね。 いくら治癒だとしても空いた穴まで塞がるなど聞いたことがありません 」
「人間を辞めたやつに言われたくないね 」
目の前のケビンは以前の姿とは違い、彼の全身に黒い紋様のような、呪印のようなものが拡がっている。
さらには身体も一回り……いや、二回りも大きくなった。
そして纏っている魔力量も人間のそれとは大きくかけ離れているのだ。
「ボクはヴォルガンさんの意志を引き継いだ。 そのために人間を捨て、この力を手に入れたんです。 今のボクは神ですら太刀打ちできないですよ 」
彼の魔力量を感知すると、どうもその神以上の力を持ったというのはあながち嘘でもなさそうなのだ。
彼の体内から溢れている魔力はあまりにも多すぎるのか具現化し、ケビンの身体を常に纏っている状態にある。
だが、不思議と怖さは感じない。
第2試験で一戦交えたセリアの方がよほど怖かった。
きっと今はアウロラの魔力を借りているからだろう。
(春陽、あまり長いことは力を貸してやれんぞ。 なるべく早く片付けるのだ! )
そりゃこんな強い力をずっと貸してもらえるわけがない。
ある程度制限みたいなものがあるのだろう。
「なら、早く片付けるか 」
「……ん? 誰を片付けると言いましたか? 今のボクは神よりも強いと言ったでしょう 」
どうやら俺の言葉で少し彼の癇に障ったようだ。
ケビンは落ち着いて深呼吸をししている。
そして一気に息を吸い込むと同時に炎の魔力が溢れ出て、身体中を纏い始めた。
「ボクの力を知るがいい! ハアァァァァァ!! 」
力でねじ伏せようが如く、真っ直ぐに突っ込んできた。
が、それは彼が小走りで近づいているのではないかと思わせるほどの速度であり、避けるのは容易かった。
「な……! 避けるとは、これが見えてい……グハッ! 」
ドンッ───
彼の攻撃を避けるついでに一撃加えてやったのだが、ここまで強く後方へ吹き飛ぶとは思いもしなかった。
ケビンは壁に背中から突っ込み、埋めこまれている状態となっている。
「う……痛い、痛い痛い痛い……イダイイダイイダイイダイイダイイダイイダイイダイイダイィィィィィ!!!! 」
ケビン、我を忘れている?
彼はもう一回り身体も大きくなり、黒い紋様もさらに濃く広い範囲に広がった。
そして唯一人間らしかった顔や肌も獣のような見た目に変わったことで完全に人間離れした姿となった。
「……なんだ、あれ…… 」
(あれはもうケビンではない。 普通の人間が魔族の魔力を使うからそうなるのだ! 春陽、あれはもう元には戻らん、楽にさせてやれ )
「……でもっ! 」
(あれが街に出たら被害も出る、それにここでほっておけばセリア・ウィンドウィスパー、ミア・ローズもただではすまんぞ )
目の前のはどう見ても化け物だ。
いくらそう言っても元は人間、俺だって人間だからどうしても殺すのは躊躇いがでる。
しかし今ここにいる仲間を、この街を守れるのはきっと俺だけだ。
ここアルカナに訪れた俺の使命なのかもしれない。
「……よし、覚悟を決めたよアウロラ 」
(ああ、頼んだぞ )
「ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛!!!!!」
我を忘れているからか、先程のような強さはもう感じられない。
動きも遅いし、隙だらけだ。
だが、おそらく一撃一撃は前より格段に強くなっている。
「このスピードならいけるぞ! 」
この魔法はアウロラの記憶から情報を得たもので、彼を仕留めた魔道士が使った魔法だ。
こんな魔法を使ってもアウロラは良い気しないだろうが、彼の記憶の中で1番強い魔法であり、印象に残っているためダントツで情報量が多かった。
そのおかげで俺の頭にこべりついてしまったのだ。
だから嫌味とかではないよ、許してねアウロラ。
「古代魔法 【⠀
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます