第103話 VSゾルガン④
こんな険しい顔をしたゾルガンは初めてだ。
動体視力を遅めているわけでもなく、時間魔法で遅れているわけでもないのに俺の打撃に防御が間に合っていない。
やつはここまで間一髪直撃を避けていたが、ついに俺の本気の蹴りが胸部にクリーンヒットしたのだ。
「ぐっ! 」
ドンッ――
勢い余ってゾルガンはまっすぐ後方の壁に突っ込んだ。
今までの実力差が完全に逆転した瞬間だった。
「これほどの実力差、初めて感じた……。 これが恐怖ってやつなのか 」
やつはそう言いながらゆっくりと立ち上がってきた。
「ゾルガン、そう思うなら道を開けてくれ。 俺たちはエレナを助けたいだけなんだよ 」
するとやつは首を横に振り、
「それは無理だ。 俺の任務はお前達を葬ること。 それを全うするだけ 」
「自分が死んでもか? 」
その問いに対して、やつは深く頷いた。
「それに、エレナ様ならもう戻ることはない 」
エレナ様?
戻らないとはどういうことだ?
「ど、どういうことだ! エレナに……俺の娘に何かしたんだろ!? 」
すると後ろから未だにへたり込んでいたゼフィールが立ち上がって、そう言葉を投げてきた。
「お前の娘? 勘違いするな。 エレナ様は正真正銘マルコス様のご息女だ 」
なんだって?
ゼフィールが父親じゃないのか!?
アークスカイで倒した第八席だって、ゼフィールの名を口にしていたはず。
「ゼフィール、その話本当か? 」
「いや……実のところエレナはシャドウバレーで拾ったんだ。 だから本当の親までは知らない…… 」
そう言ってゼフィールは俺から目を背けた。
「だからお前達がシャドウバレーに行ったところで何もできない 」
「そんなことはエレナが決めることだ! ゾルガン、お前が決めることじゃない 」
「つまりお前達はシャドウバレーに行くということでいいのか? 」
「あぁ! 分かったら退いてくれ 」
やはりそう言ってもやつは一歩たりとも退くような仕草を見せない。
むしろ戦いの続きをしようとしている。
「本当に行くのなら俺を倒す他ないぞ 」
やっぱり戦うしかないみたいだ。
やつを消し去る他ない。
ただこいつには魔族への忠誠心こそ感じるものの、本物の卑劣さや醜さのようなものは一切感じないのだ。
なんとなく実は悪いやつではないのではないか、なんて思っている自分がいる。
だから本心としては、戦わないでいいのならそれがベストだ。
こんな時は……外の魔力を取り込み、情報を得る。
俺はそうやってここまで来れたのだ。
「戦う前に待ってくれ! 」
「待ってくれ……だと? 」
俺から思わぬ言葉が出て、ゾルガンは怒りなのか戸惑いなのかよくわからない顔をしている。
あえて言うならばその中間の顔だ。
ただここでは実力が逆転し、俺が優位な状態。
さらにはきっと俺から戦う意思が見えていないからというのもあってか本当に待っているようだ。
これで集中して魔力を取り込むことができる。
イメージしろ。
魔族のことを俺に教えてくれ、そして殺さずに戦いを終える方法を……。
するとイメージが湧いてくる。
魔族の生まれた経緯、ダークオーダー、魔族神、色々な情報が脳内に流れてくるが、本当に欲しい情報を得ることができたためイメージは一旦中断した。
今まで倒す方法しか考えてこなかった。
そりゃ悪いやつじゃなければ、戦わずに終える方が良いに決まっている。
「ゾルガン、待たせたな。 お前を解放してやる 」
俺はダークオーダーの真実を、魔力から垣間見ることができたのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます