第40話 好敵手

「さぁいくぜ転校生!【 獣人変化⠀】 」

 先程まで鼻が利くゴツイ人間だったガレンは、まるでゴリラと言わんばかりの体つきになり、その体を守るように魔力を纏った毛皮が彼の身体を覆い始めた。


「おお、強そうだ…… 」

「だろうよ! さぁ覚悟しろっ! 」

 その語尾が終わると同時に飛びかかってきた。

 だが、対応できない速さではない。

 カイルの方がよほど速くそして一撃が強かった。

 殴り合いはこちらが優勢だと思う。

 いや、寧ろ相手の打撃は全て避けこちらの攻撃は何発も命中しているため、余裕で優勢だ。

 これなら余裕で……!?

「雷中級魔法【 ライトニングスフィア⠀】 」


 球状の雷エネルギーが遠くから飛んできたため、やむを得なく後方へ大きく下がった。

 くそ……殴り合いは優勢だったのに、後ろの敵をつい忘れてしまっていた。

「ちっ! 外したか! 」

 雷魔法を使ってきたのは、サイラスという男。

 強い魔法ではないにせよ試験中にダメージを蓄積したくない。

 あぁ、重力魔法で沈めたいところだが、この魔力量だとおそらく大した効果はなさそうだ。

 いつもすごい魔力量を使っていたんだなと改めて感じる。

「炎中級魔法【 インフェルノアロー⠀】」

 俺に炎の弓矢を飛ばしているのは、残りのローランだ。

 まぁ当たらないが。

 当たらないにせよ、後方で遠距離魔法2人と近距離ゴリラが相手となると、これ結構キツイんじゃ?


 とりあえずゴリラだけでも仕留めれば戦況も変わる。

 この無属性エーテルバフで。

 次は俺から近距離攻撃を仕掛けた。

「ふんっ! お前遠距離魔法警戒してて、攻撃に集中出来てないぞぉ!」

 くそ!その通りだゴリラ。

 近距離の殴り合いも互角とまではいかないが、決定打に欠けている。

「……っと、危ない! 」

 遠距離魔法に当たるとこだった。


 かなりの魔力を使うがやむを得ない。

 ギルドの時使った炎神級魔法でも使うか。


 ドンッ───

 ……!?

 エグい音したけど。

 音だけじゃなく爆風もすごい。


 爆風がした方を見ると、遠目で魔法を放ってきていたサイラスとローランが伸されている。

 完全に意識を失っているようだ。


「おい、ワシを置いて面白そうなことしてんじゃねぇかぁ 」

 この野蛮そうな声は覚えがある。ライラだ。

 あいつ一撃で2人倒したの?

 もう魔力関係ないじゃん。

「……ちっ! 一撃っつーのはつまらん男どもだ! 転校生! 早くそのゴリラぶっ飛ばしてワシと戦え! 」

 えー地下2階に行くためには倒すの1人でいいんじゃないの?

 何あの戦闘狂。


 俺と対峙しているゴリラはというと、ライラを見てポカンと口を開け、唖然としているようだ。

 それもそうか。仲間が一瞬でやられ、形勢逆転されたのだから。

「おい、ゴリラ! 俺らも終わらすぞ! 」

「……ちょ、ちょっと待て待て!!」

 俺はその言葉を待たず、無属性エーテルバフを纏い、一瞬で相手の懐に強烈な一撃を加えた。

「……ぐはっ!!!」


 言葉の通り一撃で倒した。

 なんだ、動揺したゴリラは弱かったな。

 そもそも1体1だったらこんなもんだろう。


「転校生!!! いい一撃だ! 気に入った! そういえばお前はあのセリア・ウィンドウィスパーにも勝っていたな 」

「え、あぁそうだけど 」

「ならお前はワシの好敵手になり得るかもしれん。 ここで戦うのはもったいないし、地下2階以降出会った時がどちらかの命が散る! そうしよう! ガハハハハッ! 」

 そんなことを言って扉があるであろう方向へ飛び跳ねていった。


 とりあえずここで戦わなくてよかったけど、あの魔王をこの学院に入学させたのはどこのどいつですか?

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