第69話 神技

 ノクティス様が亡くなった。

 彼の姿はなく、その事実のみが残った。

 それがちょうど今さっきの出来事。

 セレスティアは未だ絶望に暮れているようだ。


 俺も胸が熱く苦しい。

 身近な人が亡くなるというのはこんなにも胸が苦しくなるものなのか。

 そしてその熱さは増す一方。


「……熱いっ! 」

 あれ、あまりの熱さに片膝をついてしまった。


「おい、どうしたのだ! 」

「春陽さん! 大丈夫? 」


 ミアとカイルは俺に駆け寄るなり声をかけてくれているが返事をする余裕がない。


「なんだこれ……。 うううっ痛い…… 」


 何故だか息が苦しい、胸が痛い、熱い、様々な苦痛が降り掛かってくる。

 これヤバい、もう意識が……。


 そして意識が途切れ、気づけばある人物が目の前に立っていた。



 ◇



「おい、人間! まだ寝ぼけているのか? 起きろ 」


 なんか見たことあるぞ。

 パステルカラーのポニーテールイケメンだ。

 そして神らしく翼まで生えている。

 こんな人物1人しか知らない。


「……ノクティス様!!! 」


「やめろ、くっつくな! 僕は男に興味はないっ! 」

「グハッ! 」


 いけない、つい柄にもなく男に抱きついてしまった。

 そりゃもう会えないと思っていた人に再び会えたのだから間違った反応ではないとは思うが、そんな蹴らなくても……。


「でもなんでまた会えたんですか? ……ってかここどこ!? 」


 周りを見渡すとどこまでも続く真っ白な空間、もちろんいるのは俺たち2人だけだ。


「ここは僕が作った空間だ。 それに明確には僕ではなく、僕の魔力の一部といったところかな。 神としての身体は限界だったから、最後の魔力をこっそりお前に吹き込んだ 」


「……そうだったんですね。 でもなんのために……? 」


「そりゃお前、ナイトフォールへの行き方と神技じんぎの使い方に決まってるだろ! 知らなくていいならもう消えてもいいんだがな 」


 そうか、そのためにノクティス様は……。

 嬉しい……けどなんでティア以外には口が悪いんだ。


「いやいや、教えて欲しいです! 」


「ふん、始めからそう言えば良いのだ。 ナイトフォールについては少し長くなる。 だからウォーターグレイスに住むアリアという神に聞け。 彼女の方が詳しい 」


「わかりました。 そこにはどうやって行けば? 」


「ティアに聞けば分かるだろうよ 」


「そして神技についてだが……まぁ体験する方が早いか 」

 そう言ってノクティス様は俺に手をかざしてきた。


「……特に何も変わったことは…………ん!? 」


 突然目の前が真っ暗になった。

 まるで目隠しをされた時のように。

 さっきまで白い空間にいたんだけどなぁ。

 ……怖いぞこれ、めっちゃ怖い。


 ……と思っていると再び視界が開け、先程の空間とノクティス様が現れた。


「あれ? さっきまで目が見えなかったんだけど 」


「これが知覚を操る、ということだ 」


 おおっ!思ったよりすごい力だ。

「他にもこんなものがあるぞ 」

 と、ノクティス様は様々な力を見せてくれた。


 その力とはマルコスが俺たちに気づかなかったように、認識を無くさせたり、視覚聴覚などの五感を一時的に奪ったりというものだった。


 ただ五感を奪うとなると、かなり強大な力のようで敵によるが、本当に数秒程度らしい。

 敵によっては効かない場合もあるとのことだ。


 色々教えてもらったが、相手の体感速度を変えたり、動体視力を下げたりなど戦う敵にデバフのようなものをかけられるというのは便利そうだな。


 そして最後にもう一つ、『力の覚醒 』。

 明確に言うと、脳に自分は強いと知覚させることで身体のリミッターを外したり潜在的な能力を引き出したりすることができるということのようだ。


 ただ神技は自分には影響がないらしく、能力を使うのは敵か味方かになるという。


「神技の説明はこんなところか。 まぁまだ別の使い方もきっとあるはずだ。 色々試すといい 」


「はい、なんとかやってみます 」


「悪い、そろそろ魔力が切れそうだ。 ……最後に1ついいか? 」


「……? はい? 」

 なんだか困惑している表情だ。

 何かあったのだろうか?

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