第42話 不穏な空気

ケルベロスに変体した女が突っ込んできた。

 これは何かを比喩しているわけではない。

 目の前の事実を語っているだけだ。


「速いって! 」

 そう思ったが、溜め込んだほとんどの魔力をエーテルバフに変えたため、なんとか動きにもついていけている。

 その証拠に相手の打撃を全てガードしてみせた。


「転校生やるのぉ! オラオラオラァァ!! 」

「おかげで魔力空っぽだけどなっ!! 」


 ドスッ───

 何度か打撃を加えた上に、一度クリーンヒットしたんじゃないかと思えるほどの一撃を腹部に喰らわせた。


「いい打撃を持ってるじゃねーか! 」

 さすがに一撃は効いたらしい。

 少しよろつきがみえる。


 やはり多くの魔力をエーテルバフに変えればその分強くなるようだな。


「楽しくなってきたぜェェェ!! 」

 よろつきながらもまだ速度を上げてくる。


 ドスドスドスッ───


「痛ってぇ…… 」

 あいつ速度も威力も上がっており、守っている暇がないため、ノーガードの打ち合いみたくなってしまった。

 あんなの何発も喰らってられない。

 ライラもボロボロだが、なぜか嬉しそうにしている。

 やはり戦闘狂の気持ちは分からん。


 「転校生これからだなァァ!! 」


 バタバタバタッ───

 ドタッ───


 誰かが走ってきて、倒れた音がした。

 振り向くと、誰かが倒れている。

「ライラ、1回中断だ 」

「ふん、やむを得ん 」


 ちょっと近づいてみるか。

 いや、近づかなくてもあの綺麗な金髪が誰かぐらいは分かった。

 あれはセリア・ウィンドウィスパーだ。

 彼女が負けるなんてどれほど強い相手なのだろうか。

 といってもここには決まった相手10人しかいない。

「おーい、セリア、お前が負けるなんて珍しいな 」

 なんて冗談ぽく声をかけてみたがセリアは怯えており、それどころじゃなさそうだ。


「お父さん……お母さん、きっと無事。 大丈夫…… 」

怯えながら自分にそう言い聞かせているように見える。

「おい、セリア! 何があった! 」

「ふむ、こいつのこのような姿見たこともない。 アイツらしさがなくなっとるのぉ 」

 いつもと違うセリアの姿を見て、ライラは淡々とそう語る。


「逃げてもどうせここから出れませんよ 」

 セリアが走ってきた方からもう1人やってきた。

 この声はさっき聞いたことがある。

 ケビン・ファイアウィスパーだ。


「ケビンといったか。 お主お前がセリアを追い詰めるほどの実力があるのは分かったが、ここまでする必要あったか? 」

 ライラが至極まともなことを言っている。


「ち……ちがうのっ。 その人じゃなくて…… 」

 セリアが俺の服の裾を引っ張りながら、微かに聞こえる声で訴えかけている。

「セリア……どういう…… 」


「ああ、彼女をそうしたのは僕じゃないですよ。 彼は今この奥でミア・ローズの相手をしていると思います 」


「ミアが? セリアをこんなにしたやつと…… 」

「……ライラも行きたいんじゃないのか? 」

「ならケビンは誰が相手する? 」

「………… 」

「お前になら任せられる! 」

 ライラの気持ちは伝わった。

 そして俺はそれを背負ってミアの元へ行くとしよう。


 しかし一体奥には誰がいるんだ。

 ここは転移でしか来れないんじゃないのか?


「勝手に話を進めていますが、ここを通れると? 」

「ああ、俺は行かせてもらう 」

「行かれては困ります。 炎神級魔法【 ディヴァイン・イグナイトノヴァ⠀】」


 遺跡内のこのフィールド全体に青い炎が広がっていき、生き生きと泳いでいるように見える。

 この魔法、見たことがあるぞ。

 俺がギルド認定試験で使ったものだ。


 生き生きと飛び跳ねている青い炎を見ると、改めてこの魔法が恐ろしいものだと分かる。


「すごい魔法だけど、通らせてもらうぞ! 」

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