第98話 カイルVSドレア②

「ひゃあ――っ! これで人間串焼きの出来上がりだ……っていない!? あいつどこ行った? 影に血だってついてる。 そう遠くは逃げられないと思うが…… 」


「ここだ――っ! 」


「んなっ! 」


 ドンッ――


 俺は時空間魔法【 ディメンション・ウェイブ 】によりさっき居た場所と別の場所の空間を繋げた。

 咄嗟のことで、繋げる場所の指定まではすることはできなかったが、何度か影に刺されながらも移動を果たした。


 幸いそんなに遠くない場所だったため、やつが高笑いしている間に後方へと移動し、蹴り飛ばしてやったというわけだ。


 さすが神級のエーテルバフ。

 速度も段違いだし、威力も以前とは比べ物にならない。


 実際、あの上位魔族でさえ俺の蹴りで吹っ飛ばされ、着地で受け身も取れずに倒れ込んでいる。


「ううっ……。 人間如きの攻撃を受けるなんて。 お前のことは敵として認めなければならないようだな 」


 そう言いながら、ドレアはゆっくりと立ち上がり続ける。


「影遊びはここまでだ。 本気でいく。 魔人化【 影纏い 】」


 なんだ?魔人化って?

 やつの周りに闇のエネルギーとさっきまで使っていた影が集まっていくぞ。

 そしてそれが身体に纏われていく。


 俺達でいうエーテルバフみたいなものだろうか。

 そしてその闇は身体に纏うなり悪魔の形を模し始めた。

 ……いやそれだけじゃない、それに続き、影が鎧のように身体に巻きつき顔まで覆っている。


 これで『黒い鎧を纏った悪魔』が誕生した。 


「驚いたか? これが上位魔族だけが使える魔人化ってやつだ 」


「あぁ、正直ビビりまくってるぞ! 」


 この感情は事実だ。

 もちろん格上の相手……。

 しかし戦えないというほどの実力差は感じない。

 以前ならば、震えが止まらず手も足も出なかっただろうが、今の俺ならばっ!


「その割にはお前のその目……勝つ気だな? 」


「うん? そうだなぁ。 勝てる確信はないが、負けるつもりもないぞ! 」


「ふっ! 正直なやつだ! お前、名前は? 」 


「カイルだ! 君はドレア、だろ? 」


「そうだ! カイル、お前とは出会う場所が違ったなら、友になれたかもしれないな 」


「ははっ! 全く同感だ! 」


「しかし、カイルよ。 僕達はお互いに慕う主が違うから戦わないといけない。 そこで提案だ。 お前魔族側にこい! カイルの実力ならばダークオーダーとはいかないが、僕達の側近くらいなら問題なくなれるだろう 」


「そうだな。 それもいいかもしれない 」


「ならばっ! 」


「だがドレアよ、悪いな。 俺は今の主……いや、友を裏切ることはできんっ! 」


「そう言うと思ったよ! そんなカイルを気に入ったのだから! しかしこれで戦う他なくなったわけだな 」


「そうだな、ドレアよ! 」


 この言葉を、境にドレアは戦闘態勢に再び入った。

 そしてそれを感じた俺も遅れまいと向かい合う。


「行くぞ、カイル! 殺す気でこい! 」


 その黒い鎧を身につけている悪魔は、常軌を逸している速度で向かってきた。


 そして俺は引き続き神級のエーテルバフを纏い、同じく彼に向かっていく。


 このままだとドレアと衝突するはずだが、彼の鎧からニュウっと伸びている影の刃、さっき俺を突き刺してきた影達がその前に直撃する。


 だがさっきと同様、雷のエーテルバフの特徴は『速度』だ。

 それも俺のそれは神級に匹敵しているはず。


 幾億もの影の刃も目前!

 しかし全ての刃を紙一重に避ける。

 よし、問題なく対応できてるな。


 それに追いつくようにドレア自身と接触する。


 手と手を組み合い、一瞬力が拮抗した。

 が、すぐお互いが同時に腹部を蹴り飛ばし合う。

 そして各自飛ばされたことで再度距離開いた。


 次いで時を移さず、距離を詰める。

 今度は正面から拳を交わし合う。


 物理的な攻撃ではほぼ互角。

 なんとか魔人化に対抗できている。

 だが、手数の多さでは向こうが1枚上手。

 この攻防に加えて、影の刃も突き刺してくる。

 さすがにこの均衡も長くは続かなかった。


「グハッ!! 」


 この流れを壊したのは、魔人化したドレアの一撃。

 やはり手数の多さで勝負は決まっていた。


 俺は影により右大腿を貫かれ、動きが鈍ったところをドレアにぶん殴られた。

 それにしてもかなりの距離飛ばされたな。


 それでも彼は攻撃の手を緩めない。

 またも距離を詰めてこようとしている。


 ドレアの表情、あれは戦いを楽しんでいるような顔。

 恐ろしいほど満面の笑みだ。


 このままじゃ殺される――っ!

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