第24話 試験前のトラブル

「みんな、助けてくれてありがとう 」


「そんなの当たり前だ! 仲間じゃないか! 」


「ミアが無事でエレナ嬉しいぃ…… 」


 2人に続いて俺も、

「無事でよかったよ、ミア 」


 それぞれが彼女に言葉をかけた。


 しかし気になることが山ほどある。

 それはミアが狙われた理由。

 もちろんそれだけではなく、すぐに殺されなかったのはなぜだ。

 そして目的はなんだったのか。

 気になるが、彼女は今心身ともに疲労困憊だろうし、また後日聞くことにするか。


「よし! 気を取り直してギルドだ、ギルド! 春陽もいるし、もう襲ってこないだろうよ! 」


 カイルのその言葉で、少しばかり暗かった空気が元に戻ったような気がした。

 さすがポジティブ人間カイルだ。ありがとう。


「そうですね、ギルドに向かいましょう 」


「いくぞぉー! 主様も早く!! 」


 エレナは少し先に走り出して、俺のことを呼んでいる。

 彼女も疲れたかと思えば、まだまだ元気いっぱいなようで安心した。

 少しギルドから離れた場所となったが、元の予定通りギルドへ向かおうか。


「エレナ、そんな急いでもギルドは逃げないってば 」

 放っておくわけにも行かないため、彼女を追いかけるのであった。


 ◇


 そんなこんなで、目の前には冒険者ギルドがある。

 よくアニメでギルドというものを見てきたが、まるでそのギルドと似たような外観である。

 なんだか緊張するな。

 転校生の通学1日目とはこんな緊張感なのだろうか。


「緊張することはないぞ! 春陽! 行こうぜ! 」


 傍から見ても分かるほど俺は緊張していたのか、見かねたカイルがギルドの扉を開いたのだった。


 ───ガヤガヤッ


 中には多くの冒険者らしい人々がうろついている。

 テーブルに集まって食事をしていたり、グループで話し合いをしたり、受付のようなところでクエストを申し込んでいる人もいるようだ。

 外観だけではなく、内観もしっかりと冒険者ギルドであった。


「おおっ! 」


「春陽さん、目をキラキラさせてますねっ! 子供みたいで可愛いです…… 」

 ミアがそう微笑みながら言ってきたが、おれはそんな顔をしていたのか、気づかないほどに内心感動していた。

 もちろん異世界や魔術学院も感動していたが、いつもは何かと目的もあったので感動している暇はなかったのだ。

 そして俺は初めて異世界に期待実感が湧いた気がした。


「ようし! 感動し終わったか? 春陽、エレナお嬢、試験がもうすぐあるし、受付済まそうぜ! 」


「え? もう試験あんの? 」


「もちろん! 試験の時間に合わせて来たんだ! 余裕もってで良かったぜ! 」


 この男、こんなに計画的な男だったのか。

 まるで侮っていた。

 よし、エレナと受付へ行くか。

 


「エレナ、受付に……っていないぞ? 」



「なんだ嬢ちゃん? 君みたいなガキは試験受けても受かんねーだろうからさっさと帰りなっ 」

 受付の方からそんな話し声が聞こえた。


「春陽さん…… エレナちゃんです! 」


 おい、いきなり迷子になって何を揉めてるんだあの子は。

 なんだか若そうな男3人に絡まれている。

 現実世界でいうとナンパに見えてもおかしくない……かも。


「エレナも主様も試験に合格するし、主様はお前らなんかより強いんだっ!」


 いや、ナンパじゃなくてしっかり喧嘩してるな。


「おい、エレナ! 揉めてないで試験の受付するぞ 」

 そう言ってエレナを受付に連れていこうとすると、若い男共のリーダー的なやつが

「おいおい主様よ! お前の子分が俺たちに喧嘩売ってきたんだわ、もちろん買ってやるから試験の結果で勝敗決めようや 」


 俺まで絡まれたじゃないか。

 エレナよ、めんどくさいことに巻き込んでくれるな。


「勝敗というのはどうやって決めるのですか? 」


「そうだな、試験で振り分けられる冒険ランクで決めるか! もちろん高いランクのやつが勝ち。で、同ランクなら試合をしよう 」


 はぁ……本格的にめんどくさいが、このリーダーは魔力量だけで言うとカイル、ミアより高く感じる。

 魔術対抗試験も控えているし、試合をすることになったらいい腕試しになるかもしれない。


「分かりました。 じゃあそれで決めましょう 」


「待て、もちろん負けたやつはなんでも言うこと聞くんだぞ? 」


 別に命令したいこともないが、早く受付も済ましたいし、適当に返事をして受付へ向かった。

 エレナは未だにムスッとしているが。


 受付をそそくさと済ませた俺とエレナはカイル、ミアの待つテーブルへ戻った。


「お待たせ! 」


「春陽、すまんな、絡まれたとき一緒に行けずで……」


 珍しくカイルが申し訳なさそうにしている。

 出会って初めて見たかもしれない姿だ。


「いや、俺1人で大丈夫だって! どうしたんだ? 」


 カイルに続き、ミアも謝罪の顔が広がっているような表情をしている。


「すみません…… あの人学院の卒業生で、一応首席卒業をされてるんです 」


 そうだったのか。

 あんなモブのような顔をしていても、たしかに魔力量は多かったもんな。

 ミアは話を続け、

「見た通り少し気が強くて学院でも問題のある生徒でした。もちろん私達も注意すれば良かったんですけど、実力ではなかなか敵わず…… 」


 なるほど。

 あまり会いたくない相手だったってことだな。


 ピンポンパンポン───


 そう話をしていると、店内アナウンスのようなものが流れてきた。


 『ただいまより、冒険者ギルド後方に建つ闘技場で、ギルド認定試験を行います。 受付がお済みの方は闘技場までお集まりください 』


 いよいよ、試験が始まるようだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る