第69話 そう思えば幸せ

 すべては受け取りかたにかかっています。

 以前にも書かせていただいていますが、出来事はただ起こるだけで、そこに意味はありません。

 極端な例を挙げれば、人のものを盗んでも法律がなければ犯罪ではありません。法律があるから悪事になっているのだと考えると、窃盗もただの出来事ということになります。

 また、自分にとってどんなに不都合なことでも、見る角度を変えれば学びがあったりします。

 たとえば、財布を落としたとしても、落とすような持ち運びかたをしていたことに気がつけば、それ以降、そうではない持ち運びかたを考えるという学びがあるでしょうし、財布のような大切なものを持っているときに気が緩んでいたとすれば、もっと気をつける意識を高めるという学びだってあります。お金に関することについては昔から「勉強代だと思って」という言葉もあります。これもひとつのものの見方です。

 この世で起こることにムダはありません。ポジティブな体験か、学びしかありません。それは自然の中にネガティブなことは存在しないということからも分かります。

 自然はあるがままに、なるようになっています。そこに否定は存在しません。何があっても肯定するしかないということもありますが、とにかく肯定だけです。

 人間も生物である以上、自然の一部であると、ぼくは捉えています。自然の一部であるなら、本来は肯定しかありません。自然に否定はないのに人間には否定がある。それはなぜか。最大の原因としては、脳が高性能になってしまったからです。

 野生動物にもエゴがあると思います。ただそれは生きていくのに必要な分だけで、人間ほどエゴが力を発揮しているようには思えません。動物に「いいね」の数や、おしゃれがどうしたこうしたなど、本当にどうでもいいことです。

 人間が着飾ったり、自分をよく見せようとするのも、子孫を残すための本能である部分があるかも知れませんが、そこまで必要かな、とぼくは思います。いくらかでも人を見る目があれば、その人の中身が見えてしまうことがありますから、外見の着飾ったりは通用しないので、意味がありません。

 すこし話が逸れました。戻します。

 この世には、ポジティブな体験か学びしかないと書かせていただきました。もちろん人生も同じです。

 普段何気なく見ていると、この世というのはネガティブに見える出来事が数多くあります。ニュースなどはそういったものの集大成です。そういう話ばかりかき集めて放送するわけですから当然です。とは言え、あまり集中して報道されると、まるで身近に事件や事故がやたら起こっているような気がしてしまいますが、実際に自分が事件や事故に遭うということは、そう多くはないと思います。

 人のうわさ話やニュースなどで、事件や事故を数多く目にすることで、世の中がとても良くない空間であると、思い込んでしまうと、すこしずつ自分の身のまわりでそういうことが起こりはじめます。「類は友を呼ぶの法則」です。自分がそう決めてしまったことで、自分の周囲の環境に良くないモノやコトを引き寄せてしまいます。そんな周囲を目にしたり耳にしたりすることで、より法則の力が強まり、どんどんいらないものが集まってしまいます。

 もう一度、冷静になって考えてみましょう。

 実際に、身のまわりで事件や事故が頻発しているでしょうか。昨日も一昨日も近所で火事があって、今日もまた近所で火事があったとか、一週間連続で自分の周囲で殺人事件が起こったことがあるでしょうか?

 ものすごく治安が悪い国であればあるかも知れませんが、日本ではなかなかそんなことにはなりません。世界的に見れば、やはり治安のよい国なのだと思います。


 あなたの身に起こる出来事、たとえば体験すること、直接目にしたり耳にしたりすることや、メディアを通して見たり聞いたりすることなど、そこに意味はまったくありません。いつかの「引き寄せの法則」の結果だとしても意味はありません。

 出来事や物事の意味というのは、かならずあなたがそのたびに決めています。

 あなたにとって都合のよいことは、あなたが都合よいと意味をつけただけ。あなたにとって都合のよくないことは、あなたが不都合という意味をつけただけです。

 たとえば、何かの拍子でマグカップを落として割ってしまったとします。それが大切にしていたものであれば、後悔したり残念に思ったりするでしょう。何も思い入れがなければ、「あ、割れちゃった」ぐらいで片づけに進むでしょう。幼い子供が近くにいたりすれば、マグカップのことはほったらかしでケガをしなかったか確認すると思います。

 出来事としてはマグカップを落としたら割れた。それだけです。あとは思い入れや状況によって、さまざまな意味をプラスして、次の思考や行動に移っていきます。

 この世での出来事や物事はすべて、そのようにして尾ひれがついているだけです。

 さらには、誰もが自分の意味をつけて、他人に話したりしています。話を聞いているほうは事実を知りませんから、その人がつけた意味を含めて、事実として受け取ってしまいます。そうやって、話は大きくなっていたりしています。


 余談になりますが、ぼくのエッセイ、一話一話がかなり長めです。実質エッセイとしての文字数ではないと思います。

 それはこの尾ひれを避けるために、同じことでも違う角度からお伝えすることによって、ぼくの意図がなるべくそのまま伝わるようにと思って説明しているうちに、このぐらいの長さになってしまっています。

 実際にぼくがお伝えしたいことは「すべてはひとつである」というだけです。その説明に何十話も重ねて、これだけの文字数を連ねていますが、それでも説明しきれません。この「すべてはひとつである」ということが、本当の意味で分かれば、このエッセイのすべてを捨ててもお釣りがきます。つまりこのエッセイは、「すべてはひとつである」ということを解体して、それをひとつずつ説明して、いつかその根っこを分かってもらって、みんなが幸せであればいい、という意図で書いています。


 話を戻します。

 人生とは、あなたがそう思ったらそうなんです。出来事や物事の意味を自分でつけるというのはそういうことなんです。

 落として割れたマグカップを見て、「寿命だったか」と思えば寿命です。「不注意だった」と思えば不注意です。ものすごく単純な理屈なんです。

 「今・ここ」に生きるということは、過去からのしがらみがないわけですから、どれだけ大切にしていたマグカップでも、割れてしまえば終わりです。大切に思うことは素晴らしいことですが、それは個人的な考えであり、自然の摂理として諸行無常が優先されます。そのように考えるからこそ、「今・ここ」ほど大切なものはない、ということになります。

 どんな体験でも周囲の言葉に振り回されることなく、あなた自身が考えて、「幸せである」とか「学ぶことができた」と決めてしまえば、それは幸せであり、学びがあったということになります。

 とかく、人は世の中や周囲の環境に答えというのか、自分の判断の正誤を求めがちですが、誰もあなたにとって正しく答えてくれることはありません。もし答えてくれたとしても、それは世の中の平均的な答えか、答えをくれた人のエゴフィルターを通したものです。答えてくれた人が特別片寄った思考を持っていると知っていたら、参考にしますか? おそらく聞くことはしても参考にはしないはずです。アテにならないですからね。そういう意味では、あなたの周囲に答えはないということです。

 あなたが下した判断は、あなたにとっての正解です。

 世の中が何と言おうと、誰かが何か言って来ようと、あなたの正解はあなたにしか分からないのです。世の中や誰かが言うことは、世の中や誰かの意見であって、それが正解とはかぎりません。よく考えてみて、世の中や誰かの答えが正解だと思ったのなら、それを受け入れたらいいだけです。反発する必要もなければ、迎合する必要もにありません。あなたは、あなたなりに自分の答えを決めて、納得できればいいんです。

 しかし、それを周囲に押しつけてしまうと、「自分だけのモノサシ」を振り回すことになります。あなたの中だけでとどめておくのであれば、それは間違いなくあなたにとっての正解です。繰り返しますが、あなたの正解は周囲の正解とは違うということを覚えておいてください。

 道端に花が咲いていて、「あぁ幸せ」と思ったのなら、あなたは幸せです。暑い日に冷たい麦茶を飲んで「あぁ幸せ」と思ったのなら、あなたは幸せです。夜、ベッドに横たわったとき「あぁ幸せ」と思ったのなら、あなたは幸せです。他の人からすればそう思えないことでも、あなたが「あぁ幸せ」と思ったのなら、あなたは間違いなく幸せです。これが人生をより良くする受け取りかたです。

 幸せだけではなく、楽しいこと、面白いこと、美しい、嬉しいというのも、同じです。あなたがそう思えばそれは、あなたにとって間違いなく幸せです。そしてこの積み重ねが「類は友を呼ぶの法則」となり、あなたの人生を華やかに彩るのです。

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