第46話 思考と気分は違うもの
会話の中で「こう思うんだ」という言葉が出ることは、誰にでもあると思います。
この「思う」という言葉と「考える」という言葉、国語的には違う意味ですが、どちらも思考の中のことだと気づいてらっしゃいますか?
あまり考えることがないお話ですが、ここを理解していただかないと話が進みませんので、最初に触れておきます。
思考というのは脳内で処理されています。「思考」という漢字のとおり、思うことも考えることも、脳内で処理されていることに違いはありません。
「思う」というと、感情的、気分的なもののように考えてしまいがちですが、言葉にして表現することができるという意味では、思考の範囲です。もちろん「考える」というのは、思考の範囲だと理解されていると思います。
「思う」にしても「考える」にしても、言葉で表現できてしまうこと、言語化できるということは思考のお仕事です。当然、脳内で処理されています。言い換えれば、エゴの範疇であるということです。
エゴの範疇であるということは、「私は」、「私が」という自我意識がその中に介在しています。これがより良い人生を求めるあなたの足を引っ張ります。エゴは社会生活の中において必要であり、重要なことですが、目に見えない世界を相手にするとき、人生や愛、心にとって、それはただのジャマにしかなりません。
エゴは自己中心的な思考で、つねに思考の大黒柱のように存在しています。「自分が生きる」ということが最優先ですから。ただこのせいで、生きたまま完全に悟ることはできません。
利他主義で生きろということではありません。自分が幸せでないのに他人を幸せにすることは不可能ですし、何かしてもそれは自己満足に過ぎません。この自己満足もエゴの導きによるものです。もちろん偽善でもなんでも、やらないよりはやったほうがいいこともたくさんありますが、ここではひとまず目をつぶってください。
目指すべきところは「なにものでもない私」という存在です。
他人どころか、自分という存在さえ手放します。あなたは水であり、空気であり、ガードレールであり、目の前の誰か、なのです。「すべてはひとつである」という言葉はそういう意味でもあります。
なにものでもない自分になれたとき、どれだけのエゴに束縛されていたかに気づくことができます。しがらみ、世間体、他人の視線、見栄、愛想笑い、声を上げられない反対意見、マウントを取り行くこと、嫌々のお付き合い、理不尽なクレームなど、これらはすべて、他人から見たときの自分の評価をあげようとする生きかたや行為です。まだまだあるでしょうけど、これらすべてが、エゴに縛られていることによって生み出された、生きかたであり、あなたという偶像です。
周囲を気にして、それに合わせて生きていれば、当然ですが本当の自分を隠すことになります。それで幸せに生きようと思っても、結局は物質的なひとときの幸せと、その反動によっておこる幸せではない状態を繰り返すだけになります。自分自身が本質で生きていないのに、本質的な幸せを感じることはできません。
思うことも考えることも、思考の仕事であり、エゴの範疇ですから、どうやったって社会性が優先されます。人は集団で生きのびてきた動物です。集団から放り出されることに、異常な恐怖を感じます。どうしても集団の中にいたいので、そのためには自分を偽ってもいいと、エゴが判断しているのでしょう。
そのせいで、本当の幸せを感じることも、受け取ることもできずに年齢を重ねていきます。年老いて、自分の体が思うように動かなくなったころに本質に気がついて、「若いうちにチャレンジしておけばよかった」と後悔する人が、先進国にはたくさんいるようです。
中には集団から飛び出して生きている人もいます。お金ではなく人として生きることを選んだ人もいます。誰でもやればできることなのですが、とくに都会で暮らしていると、お金がなければ何もできない環境なので、余計に集団から飛び出すことを考えることはすくなくなると思います。
それらはすべてエゴの本能であり、偏った思考のせいなんです。
それとは逆に、つねに本当の自分として存在している部分があります。
それが気分や感情です。ここでは「気分」で統一させていただきます。
気分は「心」が発する信号のようなもので、「魂の声」と考えてください。
言葉にならない思いというのがあります。何かおいしいものを食べて、おいしいとは言えるけど、それ以上の喜びが全身を駆け巡るような瞬間とか、長く片思いだった人から好きだと告白されたときにも、嬉しいだけではおさまらない、全身を駆け巡る何か、というがあります。誰でも一度くらいは体験したことがあるのではないでしょうか。この全身を駆け巡っているものが、「気分」です。
「おいしい」や「嬉しい」は言葉で表現できるので、瞬間的に思考で、過去の体験の記憶と比較して、理路整然と解釈し、理解して、それらの言葉となって世に放たれます。しかし、全身を駆け巡る何かを言葉で表現することはできません。「嬉しいの最上級」という言葉も使えるかもしれませんが、ほとんどの人はしっくりこないと思います。あえて当てはめるならこの言葉、ぐらいの感じではないでしょうか。そういうものなので、どんなものであっても全身を駆け巡るポジティブな何かの総称として「気分」という言葉を当てはめています。
「気分」は極端に舞い上がるような場面だけではなく、いつもつねにあなたに信号を送り続けています。本当にささいなことでも、心は取りこぼすことなくあなたに伝えようと信号を送っています。ただ、あなたがそれを受け取ろうとしないだけなんですね。理由としては、気づかないというのもありますし、エゴにあなたの「生きる」の主導権を握られているというのもあります。
心から発せられる信号は、社会の中で社会人として生きているあなたにとっては、とても些末なことで、必要性を感じるものではないと思います。実際に社会生活には必要がないことが多いと思います。もしかすると邪魔だと感じるかもしれません。ただ、社会を離れたときのあなたにとっては、これ以上ないほど重要な信号なんです。
この信号は、あなたが幸せを感じるための道しるべです。嬉しいことや楽しいことをどんどん伝えてくれているのは、いつも「気分」です。また、あなたにとって幸せではないことを伝えてくれているのも「気分」なんです。
たとえば、付き合いで飲み会に行くとしましょう。会社の仲間と行きますから、今後の会社内での立場なども考慮する必要があるでしょう。でも苦手な人がいたりすると、気分が乗らないまま行かなければなりません。この「気分が乗らない」ということが、心から発信された危険信号のようなものなんです。
体も疲れてるし、早く家に帰って、ゆっくりしたいという本音に対して、社会人としての立ち振る舞いを「考えて」、いろいろ我慢して飲み会に行こうとするエゴによる建前という構図になります。考えてる時点でエゴに囚われています。
先ほども書きましたが、「気分」とは「魂の声」です。魂は創造主でもありますから、すべてお見通しです。あなたの本心を知っているからこそ、「その飲み会は辞退したほうがよくないか」と声をかけてくれている、そんな感じです。
それとは逆にポジティブな面から見てみると、本当にささいな幸せから信号を届けてくれています。
人それぞれに趣味嗜好がありますが、その人が幸せだと感じるものについて、敏感に反応します。目に付きやすかったり、ふいに気づくことが多かったり、気になる音や言葉が無関係のところから飛び込んできたりすることがたくさんあります。そしてそれを受け取った人は、ほんのわずかかもしれませんが、幸せを感じることができます。そんなことを繰り返しているうちに、自分の中にある「魂の声」への信頼度が上がって、さらに敏感に、目の前にある幸せに気づくようになります。
そんな幸せをしっかりと味わっているうちに、「類は友を呼ぶの法則」によって、その人は幸せ体質というか、幸せを引き寄せる人になっています。
そもそも魂はポジティブしかありませんから、思考とのズレがないかぎり、つねに幸せ探知機みたいなものなんです。法律に触れない範囲で気分のまま生きていれば、あとは魂が「魂の声」を使って、あなたを幸せに導いてくれます。
これは物質的な幸せのお話ではありません。まず心が満たされる、魂が喜ぶような幸せばかりです。しかしそれが積もり積もっていくことで、もしかしたら想像もできない幸せに、何かが全身を駆け巡るような嬉しいことがあるかもしれません。
社会の中で社会人として存在するときは、思考を中心に生きて、それ以外の時間は気分を中心に生きるというのが、現代では理想的かもしれません。
今は失敗を恐れる人が多く見受けられます。損をしたくない、恥ずかしい思いをしたくない、それは分かります。しかし何をするにもネットやテレビなどの情報をアテにしていては、自分が育たない、生きるためのスキルが上がらないということにも気づいてほしいと思います。
失敗は成功しない道を一つ見つけた、という成果が出ます。そういう考えかたで生きていく、というのはどうでしょうか。
間違ってほしくないのは、思考がいらないとかムダだというお話をしているのではないということです。知識はたくさんあったほうがいいに決まってますし、たくさんの体験した記憶があったほうがいいんです。ただそれは、あなたが生きるための道具に過ぎないということを理解しておくことが重要なんです。
思考から得られるものは、あくまでも生きていくための道具です。道具から幸せは得られません。DIYなどでは、何かを作ることが幸せなのであって、完成品を眺めることが幸せなのではありません。そういう人もいるでしょうけどね。
気分によって導かれる人生の道を、思考によって開拓していく。
そういう形で生きていくことが、現代では最も理想的かもしれません。
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