第74話 幸せを創るのも味わうのも自分

 幸せはただ待っていても、どれだけ待ったとしても、体験することはありません。

 どこかに漂っているわけでも、落ちているわけでもありませんし、誰かが与えてくれるわけでもなければ、持っているわけでもありません。

 幸せはどこにも存在しません。そもそもモノではないので、肉眼で見えることがありませんし、手に取るということもできません。

 この世の基本として、目に見えないものは存在しないことになっていますから、幸せも愛も存在しないことになっています。物理ルールにおいても、数字に置き換えられませんし、質量があるものではないので、計測したり観察したりできません。

 それでも幸せを体験する人はたくさんいますし、愛を感じる人もたくさんいます。

 それなら幸せはどこにあるのでしょうか。


 幸せはいつも目の前にあります。今もすぐそばにあります。

 あなたがそれに気づくかどうかです。気づこうとしなければ、足元に花が咲いていても気づかないのが人間です。ひとつのことに集中すると周囲が見えなくなったり、気にかけていないと、目には入っていても脳が認識しないということがあります。

 幸せに意識を合わせていなければ、どれだけ目の前に幸せがあっても気づかない、認識しないということです。

 幸せに意識を合わせるということは、自分にとっての幸せがどんなものであるかを知っておかなければなりません。漠然としたイメージしかないのであれば、それは誰かが幸せを与えてくれると考えている証拠です。誰かがいくつかの幸せを持ってきてくれて、自分はそこから選択する、そんなイメージを持っていないでしょうか。

 自分の幸せは、自分の好みによるものです。誰もその好みを知りませんし、合わせることはできません。カップルや親友などが、限りなくそれに近い幸せを用意してくれるかもしれませんが、よくよく考えてみると、それではなかったりします。

 意外に思われるかもしれませんが、幸せというのはかなり厳密なもので、自分でもその厳密さを理解していないことが多いようです。大枠の幸せなら誰でも分かっていると思います。豊かさであったり、愛情そのものであったり。しかしそこまでです。

 分かりやすい例をあげると、親が自分の赤ん坊に愛情を注ぎます。一般的には、親の考えうる最高の愛情を注いでいると思いますが、それでも赤ん坊は泣き止まなかったりしますし、成長して一〇代半ばぐらいになってくると、親の愛情を受け取らないなんてこともあります。

 子供の欲している幸せと、親が考えて与える幸せが違っているということは一目瞭然です。この時点で親はエゴに支配されて、自分たちがいいなら子供もいいだろうと考えているでしょうし、子供は自分の幸せを把握していません。

 このように、幸せはとても厳密で、自分以外にそれが分かる人などほぼいません。


 厳密であり、誰にも伝えられないようなもの、それが幸せです。

 誰にも伝えられないのであれば、自分以外に知る由もありません。

 このことから、状況や状態の話であれば、その中から自分に合ったものを見つけるということがあるかもしれませんが、他人からもらったりするものではないことが分かります。

 誰かからのプレゼントや、パートナーの甘いセリフなどで幸せを感じられるのは、厳密なものではなく、最大公約数的な部分で合致したモノやコトだけです。その証拠にほとんどの人は、そのことを忘れてしまうか、記憶が薄れているはずです。本当に心から幸せを感じていれば、一生記憶に残ります。とくに甘いセリフって、年齢を重ねると恥ずかしかったりするものですしね。

 幸せは自分で創造するものです。どれだけ厳密であっても自分には分かりますし、誰にも伝えられなくても、自分の中の自分だけのことなので問題ありません。

 実際には創造するというより、発見する、に近いかもしれません。

 日常生活のすべての中に幸せは紛れ込んでいます。何を見ても何をしても、幸せな人は幸せを感じられます。その逆もまた然りですが。

 本来、「この世界」はすべてが幸せで出来ていて、整えられていますが、それを見る目というか感性があるかどうかで、幸せを発見できるかどうかが違ってきます。

 そのためにはまず、あなた自身が幸せのかたまりである必要があります。

 簡単に言えば、機嫌の悪い人は、何を見てもイライラしたり腹が立ったりするものです。ときには周囲に当たり散らしたり、むやみやたらと攻撃的になったりするものですが、それのポジティブ・バージョンをイメージしてみてください。

 先の例で言えば、すごく上機嫌な人は、何を見ても幸せを感じて喜びが止まりません。ときには見知らぬ人に手を振ったり、むやみやたらとニコニコしていたりするものです、ということになります。

 あなたが上機嫌であれば、目に映るものすべてが華やかに彩られて、さらに気分が高揚するはずです。楽しくて面白くて、笑顔が止まらなくなります。この精神状態であれば、普段なら完全に見落としていたり無視していたようなことでも、そこに幸せを見つけます。道端に咲く小さな花、頭上を飛ぶスズメやカラス、吹き抜けていく一陣の風、雲から顔を出す太陽、反対側の歩道を行く保育園の子供たちなどなど、何を見ても「幸せだなぁ」と感じるはずです。これが幸せを創造するということです。

 ちなみにこのとき、「類は友を呼ぶの法則」が起動していて、さらに幸せが集まってきて、その幸福感は止まらなくなります。

 幸せを発見するために、まずは自分を創る必要があるということです。これは頭の中でどれだけ幸せを装っても、手が届くものではありません。本気で心から幸せでないと、なかなか難しいでしょう。

 本気で心から幸せになるためには、「今・ここ」に生き、起こることを「受け入れて許す」こと、そして「感謝する」ことです。

 人生におけるあなたの立ち位置はつねに「呼び水」ですから、まずあなたが見本のようになることは必須です。目に見えない世界や目に見えない存在を信じるのは大切なことですが、依存するものではありません。目に見えないグループは、肉体の維持に関わるような緊急事態でないかぎり、向こうの意思で手を貸すようなことはありませんし、緊急事態でなければ何も助けてくれません。人生は自分で創造するものだからです。

 あなたが自分の力で「呼び水」になろうと行動を起こせば、「追い風の法則」という形で手助けしてくれることはありますが、ただお願いするのではなく、あなたが行動を起こすことが先です。これもまた「呼び水」です。あなたがどの方向に進むのかを、行動で知らせるようなことです。その行動をしばらく維持していれば、やがて追い風があなたの背中を押してくれるようになります。

 あなたが、自分の意思で、率先して、幸せな思考と行動を始めること。そしてそれを維持すること。これが安定したときに、あなたは日々を上機嫌に過ごしているはずです。あなたが上機嫌であれば、あれほど厳密だった幸せが嘘のように、どれでも何でも幸せに見えてきます。

 こうやって、あなたはあなたにしか分からない幸せを手にすることができます。

 これは他人に分かるものではなく、分かち合うことはできません。ちょうどマニアックな趣味を持つ人の話を聞くようなものです。こちらにも分かる部分があるかもしれませんが、全体的にはよく分からず、興味も出ませんよね。それと同じです。

 あなたの人生はあなただけのものであり、あなたの幸せはあなただけのものです。誰かと分かち合えているような気がするのは、最大公約数的にいくつかの共通した部分だけです。けっして完全に分かち合っているわけではありません。


 たとえばチームプレイのスポーツなどで勝利したとき、チームの全員が喜んでいるような場面があります。それは「我がチームが勝った」という一点でのみ共有して分かち合っています。細かく見ていけば、活躍できないまま終わった人、何度か失敗した人、ゲームに出ることができなかった人など、それぞれの思いが必ずあります。それでも「我がチームが勝った」という最大公約数で、喜びを分かち合っています。

 そういう意味で言えば、それがカップルや親友でも、親子でも兄弟でも、完全に分かち合うことはありません。そのため、人間には「相手に寄り添う」という思考と行為が必要になるんです。それでも完全に分かち合うことはありません。

 自分の幸せを満喫できるのは、自分が創造して体験したことだからです。誰かが創造したものでも、誰かの体験のお話でもありません。だからこそ、厳密なんです。

 誰かの幸せなお話を聞いても、ピンとこないことがあるのはそのためです。

 まず自分から幸せ体質を創造して、「呼び水」になることが第一歩です。

 それができていれば、部屋の窓を開けただけでもニコニコしてしまいます。

 もちろん、なぜニコニコしてしまうかにもちゃんと理由がありますが、それは人それぞれの感覚のものなので、何とも言えませんが、でもきちんと理由があるんです。そこに何かを感じるていて、自分でも知らないうちに、心の底から幸せが湧き上がってきます。

 流れ作業的な日常生活の動きを休止して、周囲を見まわしてください。きっと幸せの種がそこら中に落ちています。あとはそれが幸せであると感じることができる感性を、あなたの中で育ててください。

 噛めば噛むほど味わい深くなる、数限りない幸せの群れが、あなたの足元で気づいてくれるのを待っています。

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