第12話.シュテルナー公爵①
フォートミズでアミーラが攫われたことを知ったルイスとティトは、馬を飛ばして翌日の日が落ちる前にはジリンガムまで来ていた。
かなりの強行軍だ。
出来れば夜になるまでにジリンガムに入りたかったのだ。
「あれだな」
「はい」
街のほぼ中央に堂々とそびえたつ、まるで城のように大きな建物。
ジリンガムのどこからでも見えるほどの大きさ。それが、シュテルナー公爵の邸宅だ。
「やっぱ、でかいなぁ」
「はい。無駄にでかいですよね。フォートミズのような要地というわけでもないのに。金と権力の誇示でしょうか?」
「ああ、ほんっとうに貴族ってやつぁ、反吐が出る」
ルイスは怒りに満ちた目で、巨大な邸宅を見上げる。
「それで、どうするんです? 素直にこれ、差し出しますか?」
ティトは懐から火竜の瞳を取り出すと、目の高さまで掲げて見せた。
それは、沈みゆく太陽の光を受けて燃え盛る炎のように輝いている。
「ばぁか! 俺たちは怪盗だぞ。欲しい物は、この手で盗み出す。そうだろ?」
ルイスは、ティトの方に振り返って、ニヤリと不敵な笑みを浮かべた。
「はい! そうでした」
「それに、相手は貴族だ。火竜の瞳を渡したからって、アミーラを返してくれるとは思えないだろ」
「確かに。それは否定できませんね」
「だろ? あいつらはいつも汚ねぇ手ばかり使いやがる」
今回にしてもそうだ。わざわざアミーラを攫うなんて回りくどいことをせずとも、直接ルイスのところに来ればいいのだ。
それなのに、関係ないアミーラを巻き込んで。
許せなかった。
父ガエルを無実の罪で不当に断罪したバークレー伯爵に重なる。
そもそも、怪盗ナバーロの正体、さらにルイス達とアミーラの繋がりを知り得ることが出来るほどの能力があるのだ。
ルイス達の所在を調べることなど造作もないだろう。
そのうえで、ルイス達を襲うことも出来ただろう。
それなのに、わざわざアミーラを攫うあたりが気に食わない。
アミーラとは、ドリズブールにいた頃からの仲間だ。
ルイス達がドリズブールを追われた時、一緒に逃げて来た。フォートミズで落ち着いてからは、獣人の孤児たちを集めて、小さな孤児院のようなものを開いている。
ルイス達が稼いだ金の一部は、この孤児院の経営に充てられたりしているのだが、それを知るのはルイスとティトとアミーラの3人だけのはずだ。
こういうことが起こらないように、わざわざ住む家も別々にしていたというのに。
「まったく、奴ら。どうやって嗅ぎつけたものやら」
少しだけ後悔を滲ませながら、ため息とともに小さな声で漏れたその言葉は、しかしティトの耳には届かなかった。
「それで、決行は今夜ですか?」
「ああ。深夜まで待って忍び込む」
「分かりました。でも、深夜までには、だいぶ時間がありますね。もう少し内部を探りますか?」
ティトは、高い建物を探して周囲を見回す。
シュテルナー公爵の屋敷は高い外壁に囲まれていて、高い位置からでないと内部を見ることが出来ないのだ。
「いいや、やめておこう。屋敷の中まで見えるのは、あの鐘の上しか無いからな」
ルイスは屋敷の東にある教会の鐘へと視線を向けた。
公爵の屋敷には及ばないが、他の建物よりはひときわ高い鐘楼に鐘が備え付けられている。そこからなら、外壁の中も少しは見ることが出来るだろう。
「あそこから見えるなら、少しでも内部を見ておいた方が良くないですか?」
「なあ、ティト。どうやら敵は俺たちのことを調べているらしい。少なくてもアミーラとの関係は知られていた。それなら、俺たちの手口もある程度知られているかもしれないと思わないか?」
「確かに。兄さんの言う通りかもしれません」
「そうなると、お前の
「あっ、そういうことですか?」
ティトは何かに気付いたように頷いた。
「僕たちが事前に公爵の屋敷内を探るには、あの上に登るしかない。だから敵はあの鐘の上だけを見張っていればいいってことですね」
「正解!」
その答えに、ルイスはとても満足そうに頷いた。
「そういうことだ。わざわざこれから侵入するって教えてやる必要も無いからな。時間まで飯でも食ってようぜ」
そう言うと、ルイスは繁華街の方へと足を向けた。
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